「最後には苦い結末も、成熟した人生肯定の味」WXIII 機動警察パトレイバー 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
最後には苦い結末も、成熟した人生肯定の味
本作は久住、秦2人の刑事がレイバー襲撃事件の捜査を始め丹念に聞き込み等を行った結果、ある生物研究所が生物兵器の開発に加担していたのを解明していく、という刑事ものの
ストーリーがひとつの流れ。
その流れの裏側で、生物兵器の開発側がどのような人物で構成されていて、そこに個人の感傷による暴走が入り込んでいくのかを描くのが二つめの流れ。
二つの流れは交差し、前面に大人の愛のドラマや、刑事同士のいさかいを生みつつ、背景では生物兵器の化け物が次々に殺人を犯していく。
刑事たちは、研究所が化け物を作り出したことを薄々感じとる。つまり、研究所の担当者たちは犯罪の加担により有罪であると判断する。
他方、それとは別に化け物は退治しなければならない。犯罪者追及と生物兵器排除という二つの課題を、警察は背負う。
そこに登場するのが、石原一佐なる魅力的な自衛隊幹部である。
石原一佐は、この問題が自衛隊と米軍に波及することを何より恐れ、まずは研究所の所長を海外に追い出してしまう。そして化け物退治の名目の下、警察のパトレイバーを巻き込むのである。
そもそも自衛隊にもレイバー部隊があるのだから、やろうと思えば、自衛隊だけで処理できるはずなのだ。しかし、なぜか石原は「射撃はそちらの専門ですから」と警察に花を持たせるかのような言動で誤魔化す。
警察側はまんまとはめられ、化け物退治作戦にのこのこ参加する。よせばいいのに久住は、捜査で得た化け物をつり出す情報まで進んで提供するのである。石原はこれらすべてを、最もうまく活用する。
さて、化け物退治は久住が得た情報により、予定通りに進められ、無人のスタジアムにおびき寄せたうえで、何やら付録みたいに登場する太田とノアのパトレイバーが特殊開発兵器の銃弾をその
口に撃ち込んで、怪物は断末魔の叫びをあげる。
後藤がこれで一件落着と思ったところ、意外なことに自衛隊のヘリが最後に登場し、化け物を焼却してしまうのである。
彼が「これはどういうことだ?」と石原に詰問するも、石原は「シナリオが変わったんです。おたくの上は了承済み」と憎々しげに告げる。格好いいなあ。
後藤たちが不愉快そうな表情を浮かべるのは、事情を知らされていなかったからだけではない。自分たちがたった今、多数の殺人を犯した生物兵器の消去=犯罪の証拠隠滅の片棒を担がされ、ひいては殺人兵器を生み出した背後の自衛隊と米軍追及の途を自ら閉ざして
しまったからである。
石原の政治力にまんまと裏をかかれた苦さが漂うが、そんなことはしょうがない、また頑張るだけさと、最後の葬儀帰りのシーンの静謐さが、人生への肯定感を感じさせる。
石原一佐の立ち位置の御考察で成程と思いました。「シナリオが変わった」
あのシナリオにそういう深い裏事情が隠されていたとは。
証拠隠滅にまんまと加担させられてしまった後藤・久住の敗北。
従来ならばそれでエンドだけど、その石原の裏事情と重ねると、実は、後日談のネットのアンダーグラウンドで密かにリークされていたモンスターの怪情報・・・そこには、わずかに一矢報いた現場の反逆の証・・・某掲示板での噂話が、明確に強い意味をもって生きてくることになります。体制が気づいて削除に回っても、一度解き放たれた情報は無限に増殖して消せない。
あそこでネットにリークしたのは、現場に立ち会っていたネット世代の若手の警察関係者、それもおそらく特車二課の整備班員達(実際に直前に現場で待機していたカットがあります。あの騒ぎで実際に、俯瞰で収録できる立ち位置にいたのは、確実にノーマークだった彼らのはずです。)でしょう。後藤や久住達アナログ世代では到底やれない技です。
現代でも、ロシアの情報操作をかいくぐって、スマホでウクライナ侵攻が世界へ同時公開になりましたからね。