劇場公開日 1998年3月21日

「非寛容はいかんよう…」ウィッカーマン(1997) ハルクマールさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5非寛容はいかんよう…

2024年3月31日
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敬虔なキリスト教徒である主人公の警官ハウイー巡査が、行方不明の少女を捜索するために孤島サマーアイル島に向かうが、そこで待っていたのは全く話のかみ合わない島民たち。何をするにも島民の尊敬を集める領主サマーアイル卿の許可を取って欲しいと言われ捜査は一向に進まない。
他方、島民たちは性に奔放な島土着の宗教を篤く信仰していて、敬虔なクリスチャンであるハウイーはそんな島民の言動が受け入れられない。
一方、島民たちはもうすぐ訪れる五月祭の準備を嬉々として進めているのだった…。

伝説のカルトムービーと呼ばれているけど、ストーリーは案外とシンプルでかつ分かりやすく土着の宗教を信仰するサマーアイル島民と、キリスト教こそが唯一の宗教と信じてやまないハウイー巡査の対比によって、特にキリスト教のその非寛容さと傲慢さが浮き彫りになるような作りになっている。ハウイーは自分こそ正しい神を信じている、という島民にとっては全くもって大きなお世話な注意喚起をしているのが、大変滑稽に見える。
確かに島民のやっていることは一般的な道徳上好ましくないものが多い、だけどそれがこの島の道徳上特に問題が無ければ、それのどこが問題なの?となる。

キリスト教の信者且つ法の番人たる警官のハウイーが寛容になり得ない存在であるのは分かりやすい。警官だって自分が仕えている国の法律こそが守られるべきで、そこから逸脱するものは、いかに離島で別の文化だと言えども許容することはできない。
でも、この事件の捜査では島民は嘘はついているものの、ハウイーの捜査の仕方の方がよほど法律ギリギリの恫喝をしたり、或いは宗教と法律をごっちゃにしている感もあり、正直ハウイーに感情移入するのは大変難しい。童貞拗らせちゃった風紀に煩いチェリーボーイおじさんである。

大きな戦争など大半が宗教の衝突から始まる場合が大変多い。土地欲しいから攻めちゃおうなんてプーチンぐらいのもんである。
他の大規模な戦争は大抵宗教絡み、それも中でも世界二大非寛容宗教のキリスト教徒イスラム教は結局、この映画におけるハウイーそのものである。

人が何を信仰しようが、その信仰による良いこと、良くないことが自分と異なろうが、そんなのはその人の勝手。自分が正しい、自分の信じるものが正しい、って人は考えたくなるだろうけど、土地土地の考え方を無視して振りかざしたところで、迫害されるどころか藁人形に入れられて燃やされるばっかである。

自分が同化する必要も受け入れる必要もない。ただ、ああ君はそうなのね、と受け流すことができれば、世の中もっと平和になっていくに違いない。異国に住むと、その感が余計に強くなる。

そんな何事にも非寛容な現代を予見したかのような作品で、変な作品ながらなかなかに侮れない名作だったりするのである。
この辺りの目線の鋭さが、ミッドサマーでは感じられんかった部分なんやな。ド田舎祭り生贄映画のマスターピースは偉大やなと感じた次第。

ハルクマール