四谷怪談(1949)

劇場公開日:

解説

「彼女は答える」の小倉浩一郎が製作し、文政八年(一八二五年)鶴屋南北の作を封建時代に非人間的に歪曲された碑史伝説を新な解釈のもとに、「新釈四谷怪談」として「破戒(1948 木下恵介)」の久板栄二郎がその脚本を執筆、「破戒(1948 木下恵介)」「お嬢さん乾杯!」の木下恵介が監督に当る。キャメラは「破戒(1948 木下恵介)」の楠田浩之が撮影する。主演としては「異国の丘」「美貌の顔役」の上原謙が始めて時代劇に出演、「わが恋は燃えぬ」の田中絹代が二役を演ずる他に、「最後に笑う男」の滝沢修「お嬢さん乾杯!」の佐田啓二、「朱唇いまだ消えず」の杉村春子「今日われ恋愛す」の宇野重吉らがそれぞれ出演する。前篇88分、後篇73分。

1949年製作/161分/日本
配給:松竹
劇場公開日:1949年7月11日

ストーリー

お岩が茶屋女として暮した時に知り合った民門伊右衛門は、彼女を妻として迎えてみたものの、今では仕官の口を探しながら、カサ張りを内職に暮さなげればならなかった。お岩にしてみれば過去の陰惨な生活を一日も早く拭い去ろうとして、また伊右衛門の良き妻になろうと努力していた。お岩にはお袖という妹があったが、お袖は反物を売りさばく与茂七という夫があり、貧しいながらも幸福な日々を暮していた。しかし姉のお岩と伊右衛門の間に何にかしら割り切れないミゾがあった。伊右衛門は気の弱い気性を押して毎日仕官の口を探していたが、ある日一寸したことで一文字屋喜兵衛の娘お梅とその侍女お槙を救ってやった。それを見ていた牢破りあがりの直助は早速悪智恵を働かせてお梅と民門伊右衛門の間を取り持った。伊右衛門を恋慕するお梅と仕官が定まる形勢を感じた彼は少なからず動揺したが、お岩の純情さとふとしたことから流産した彼女の身辺を気使うのである。一方直助と同じ牢暮していた小平はお岩をそれとなく恋する余り、遊び使いその果ては正直ものの性格が一変してしまった。彼はお岩のためならばどんなことでもやってのけるという恋に狂う心を一人彼を待つ母をもかえりみなかった。直助は考えた。小平が自分の秘密をにぎっている、それに伊右衛門の妻お岩を恋している、お岩は全然小平を相手にしない、伊右衛門はお梅をめぐって迷っている、これに目をつけて直助は伊右衛門をそそのかし始めた。お梅の侍女お槙は直助といい仲であるので直助は植木職を利用して事を運んでいった。ふとしたことからお岩は顔に火傷をして良薬だと言って直助のくれた薬を塗るとますますひどくなった。お岩は伊右衛門にきらわれまいとせつせつと薬を飲むのだが、その薬こそ直助が計って伊右衛門に盛らせた毒薬であった。遂にお岩は火傷の顔を気ずかいながら絶望しつつ悶々のうち断末魔を叫びつつ死んでゆく、その場に現われた小平も伊右衛門に斬られ殺されてしまった。表面は小平とお岩の情死としてうまく取り計らった伊右衛門は直助のかん計に引きずり回され、お梅と祝言を交わし、仕官する、お袖は姉のお岩の死因を知る由もなく、姉が不義を犯して死んだとばかり思い込んでいた。伊右衛門は時がたつにつれて、あの悲惨なお岩の姿が消し飛んでいった。直助も伊右衛門の従ぼくとして働くようになった。一文字屋喜兵衛は良いむこ殿を選んだと大喜びであった。とある日直助と夜づりに出かけた伊右衛門は、ふとつり上げた古い板割れを見て不義の名を押しつけたお岩と小仏小平の幻影を見た、それ以来伊右衛門はお岩の亡霊や火の玉、ネズミ、長虫の錯覚に悩まされ、幸福に暮していた伊右衛門とお梅との間に気まずい思いが流れ始めた。彼は悩みやつれてお岩の墓を時折尋ねた、お袖はこれを知って彼を慰め励ますのであるが、伊右衛門は姉お岩とうり二つのお袖を見ると、彼女に恐怖を抱くようになり、遂に殺害を計り直助が盛ってくれたあの毒薬を自ら作ってお袖にのまそうとする。ちょうどそのころお袖は与茂七との間に可愛いい男の子が生れ、幸福そうな日々を暮していた。伊右衛門はいまや幻想にとらわれ、お岩とお袖の見境を失い、頭は錯乱して遂に気が狂い、自ら盛った毒薬をのみ自殺してしまう、これを聞いた直助はお岩の姿を眼の当り見る思いで木から落ちて無惨にも墜死する。お袖はお岩と伊右衛門との間の宿命的なものを感じ、お袖自身施主となりお岩と伊右衛門の霊を弔うべく二つの燈ろうに燈をともし流れゆく二筋の水路を、良人与茂七と愛児を抱いていつまでも見送っていた。

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