「戦後に焼け落ちた金閣寺と、無意味だった戦中の建物疎開の皮肉」炎上 TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)
戦後に焼け落ちた金閣寺と、無意味だった戦中の建物疎開の皮肉
金閣寺放火事件を題材にした小説の映画化。
三島文学の最高峰とも称される『金閣寺』。監督・市川崑、撮影・宮川一夫ら名匠によって映像化された本作も評価が高い。
事実に材を取りながら、三島の心象をうつしたかのような『金閣寺』はフィクションの要素も多く、映画化に際しては京都の仏教界からの反発は凄まじかったそう。
原作とタイトルが異なるのも、寺の名前が変更されているのもそのため。
ナイトシーンを多用した陰鬱な描写によって、驟閣寺の足許に蠢く人間の醜悪さや結末を予兆させる演出は見事。
眠狂四郎などの剣豪とは異なる役どころを演じた主役の市川雷蔵も素晴らしいが、共演陣も豪華。
欲望も内面の醜さも剥き出しにした、主人公とは対局的な人物・戸狩をのちの黒澤作品の常連、仲代達矢が怪演。
出番は少ないが、主人公の父を演じた浜村純も印象的。
戦時中、空襲による延焼を避けるため、京都では大規模な建物疎開が強行された。
京都の中心部で堀川通、御池通、五条通の道幅が例外的に広いのはその名残り。
実は、京都の市街地は現場投下の第一目標として温存されていたため、東京、大阪のような大空襲は実施されず、建物疎開はまったくの徒労に終わるという皮肉な結果に。
作品の序盤で建物疎開の様子をなすすべなく見つめる住民と思しき婦人の表情が痛ましい。
NHK-BSにて初視聴。
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