「こんな男を許容する時代の雰囲気」無法松の一生(1958) Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
こんな男を許容する時代の雰囲気
総合:70点 ( ストーリー:70点|キャスト:75点|演出:65点|ビジュアル:70点|音楽:65点 )
おおらかな明治・大正期に、豪快に生きた男の生涯を綴る。自分の思う道を進む彼はもめごとばかり起こす反面、何事にも負けない強さや人の良さを見せて快い男である。こんな男が現在に生きているとうっとおしいかもしれないが、時代のせいか違和感がない。こんな男も許容してしまうという時代の雰囲気がある。
一方で、不幸な家に生まれて教育を受けられずに文字すらも読めないが、子供好きで学校に憧れる姿がだんだんと明かされる。ちゃんとした家で生まれてさえいれば将軍にもなれたかもしれないと言われた大器が、その一生を町のしがない車引きとして伴侶を持つことも無く独り身のままひっそりと生涯を終える。彼の気持ちを斟酌すれば、そのせつない生き方がしんみりと残された。
前半は必ずしも洗練された演技や演出ばかりではなくて、大仰な演出や子役の稚拙な演技もある。でも三船の演じる松五郎の若い前半の豪快さと、歳を経た後半の寂しさが印象に残って、この時代を自分なりに精一杯生きた松五郎の生涯にひきつけられた。
映画の制作も古くて時代背景と大きく離れていないからまだまだ当時の面影を残しているようで、当時の社会における人々の生活が覗けるように思えるのも嬉しい。時々は美術の作り物感が出てしまう場面もあるが、この時代に総天然色で撮影していていい色を出しているのも良い。
物語も映画も、現代とはとても異なる。この時代ならではの日本だしその時代の価値観を反映した作品という感じがする。でもそれだからこの時代のことを垣間見ることが出来て良かったと思える。何度も再映画化されていて、この作品自体も二度目の映画化である。だがもし21世紀の現代で再映画化されても、この作品なみに当時の雰囲気を出すのは難しいのではないかという気がする。