「カットして図らずも含蓄の増すオリジナル版」無法松の一生(1958) たあちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)
カットして図らずも含蓄の増すオリジナル版
先週(3/14)観たのは「阪東妻三郎 無法松の一生」そして今週(3/22)観たのが「三船敏郎版無法松の一生」MOVIX三郷の午前十時の映画祭12である。オリジナルが1943年の戦時下に大映で制作されたものの軍人の後家への恋愛感情を描いた部分が時局柄検閲でバッサリとカットされ、さらに戦後GHQが提灯行列や喧嘩のシーンを切ったというのだからやるせなく15年後に稲垣監督が東宝で三船敏郎を起用しセルフリメイクして恨みを晴らした。一週間を置いてこの2本を見比べるとカラーになっているものの脚本がほぼ同じで演出的にも大きな変更はなく阪妻対三船、園井恵子対高峰秀子、月形龍之介対笠智衆という役者が入れ替わって同じ世界を生きるというちょっとしたデジャブー感覚と宮川一夫対山田一夫というカメラマン対決がかなり面白かった。宮川一夫というとどっしりと落ち着いた巨匠のイメージがあったが、早いパンと二重露光を多用する35歳宮川のカメラワークはとんでもなくアグレッシブで冒頭の少年の肩越しに二階の部屋の窓から外にクレーンで表の通りに降りて夕飯時に子供を呼ぶ母親のワンショットまで持っていく力技にまず驚かされる。対して三船版の冒頭は同じクレーン移動ながら夕暮れの路地風景から逆に木賃宿屋の中へとカメラが入って来る。対抗意識というのだろうか、すでに完成された映画を見ているのだからリメイク版のカメラマンは相当やりづらいことは想像に難くないが芝居小屋の分かりやすいカット割りといいい山田一夫は相当良くやっていると思う。編集でのオプチカル処理が出来なかった当時は絞りを抑えて撮影して巻き戻してWらせて撮ったりレンズの周囲にポマードを塗ってソフトフォーカスの効果を出していたりと映画の現場に職人がいた時代を想う。