満ちて来る潮
劇場公開日:1956年7月5日
解説
毎日新聞に連載された井上靖原作の映画化。都会とダム工事現場を背景に、男女愛情の微妙な心理を追求する文芸篇である。「名寄岩 涙の敢斗賞」の棚田吾郎が脚色を担当し、「新婚日記 嬉しい朝」の田中重雄が監督「三っ首塔」の西川庄衛が撮影を担当した。主な出演者は「真昼の暗黒」の山村聡、「逆襲獄門砦」の高千穂ひづる、「無法街」の南原伸二、波島進、「大学の石松」の園ゆき子など。
1956年製作/98分/日本
劇場公開日:1956年7月5日
ストーリー
ダムの設計技師紺野は三十を過ぎても未だ独身という男である。彼は自分が設計した天竜ダムの建設工事を見た帰り、海岸道で美しい女性苑子と知り合う。彼女は医学博士瓜生安彦の妻だったが、優秀ではあるが子供っぽい性格の夫に不満を感じていた。苑子には静岡の旧家出で大学の国文料を卒業している笙子という従妹がいた。だが、ある日笙子は突然、以前から定っていた婚約の破棄を申し出て苑子を驚かせた。二人はたまたまB新聞社講堂の討論会に立寄った処、紺野と再会し、彼が安彦の患者であると同時に飲み友達であることを知る。ある日曜日笙子は胸を病む妻を持ちながらも研究に異状な情熱を傾けている植物学者真壁の便りを受け取った。彼女は以前から妻ある彼を避けようと苦悶していたのだが、彼の妻の診療を頼んだ安彦と共に川越に赴く。秋も深まり、熊野川ダムの下調べに出張する紺野に、苑子と、都合の出来た安彦に代った笙子が同行した。苑子は結婚以来始めての解放感を味わいつつも、紺野への愛情が深まるのを恐れていた。安彦は笙子の結婚相手を紺野と心に決めていたが、紺野は安彦を気にしながら苑子と黄昏の逢瀬を楽しんでいた。この頃、笙子は真壁が長年の労苦の末作り上げた植物標本を病妻の治療費のため手放すと聞き、安彦に金策を頼んだが速座に拒絶され、仕方なく苑子に頼もうとした。だが苑子の方も紺野のため家出を決意し、金策に苦慮していた。実家に帰省すると偽って家を出た苑子は紺野と天竜ダムに赴いたが、そこで彼から、矢張り二人は別れるべきたという言葉を聞き、絶望に沈む。苑子は遂にホテルの一室で睡眠剤を呑んだ。やがて両親や安彦、笙子たちの見守る中で死への眠りから覚めた彼女の眼頭からは、後悔の涙とも云い難い雫がとめどもなく流れていた。