劇場公開日 1967年12月6日

「プロトタイプ寅さんは"生きていた英霊"?!  妻子と決別した初老の日雇い人夫が出会ったもう一人の"息子"と育む親子愛の物語」父子草 O次郎(平日はサラリーマン、休日はアマチュア劇団員)さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0プロトタイプ寅さんは"生きていた英霊"?!  妻子と決別した初老の日雇い人夫が出会ったもう一人の"息子"と育む親子愛の物語

2022年8月16日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 渥美さんといえば兎にも角にも『男はつらいよ』シリーズですが、そのTVシリーズが68~69年、劇場版第一作が69年ということで、寅さんのイメージが確立する以前の主演作品です。
 とはいいつつも本作の中に於ける主人公は"喧嘩っ早くてぶっきらぼうだけど人情に篤い"というまさにその後の寅さんの原型とも言えるキャラクターでありつつ、その一方で戦争で人生を大きく狂わされた悲しい過去を背負ってもいる複雑な人物です。
 そうして家族も持たぬまま飯場を行ったり来たりの初老の男が出会った人々との交流で見つけた余生の生き甲斐と愛でる花。

 本作の出色は、なんといっても全体としては朗らかな人情物語に仕上がっている一方で、戦争がもたらした悲劇がその中心に強く根ざしていることでしょう。
 本作の主人公である平井ですが、今でこそ妻子無しの気ままな日雇い人夫生活を送っていますが、かつては故郷である新潟県佐渡市で妻と幼い息子を養いつつの漁師生活でした。その全国何処にでも有る小さなしかし確かな幸せが、戦争への従軍によって途絶してしまいます。
 故郷に残してきた妻子に再び相見えることだけを夢見て戦地の地獄にも虜囚の辱めにも耐えてきた平井ですが、遂に帰国した彼を迎えてくれたのは年老いた父だけであり、待っていたのは既に妻子が自身の弟と再婚しているという残酷な現実でした。音信不通ゆえに死亡宣告されていたものの実は生き延びていたという”生きていた英霊”です。
 その彼がおでん屋台で偶然会った苦学青年と喧嘩する中で奇妙な友情を結び、彼を"我が子"と見做して支援する中で生き甲斐を見出し、彼の恋人やおでん屋の女将とまるでもう一つの「家族」のような関係を築いていく様が鮮やかで生命力に満ちている秀作です。

O次郎(平日はサラリーマン、休日はアマチュア劇団員)