劇場公開日 1975年5月17日

「ルメット監督は娯楽作品を撮らしても一流であった」オリエント急行殺人事件(1974) あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ルメット監督は娯楽作品を撮らしても一流であった

2019年1月28日
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鑑賞方法:DVD/BD

誰もが知る超ベストセラー推理小説が原作だから、当然お話の舞台も、筋書きも、犯人も、謎解きも、観客はもちろん全部頭に入って分かってる
それでも面白い
流石というしかない

観客は原作を読んだそれぞれのイメージ通りであるかを各シーン一々確かめながら観てしまう訳だが、監督の完全勝利だ
誰もが脳裏にイメージしたもの、いやそれ以上のものが映像となっているからだ

豪華俳優陣の名演、監督の演出、豪華列車を本当に再現した美術、俳優陣を演技を更に引き立てる見事な衣装
カメラも素晴らしい
特に駅に次々と登場人物が現れては列車に乗り込み機関車のライトが点き蒸気を吐いてゆっくりと進み出すシーンは最高の出来映え
そこにワルツのテーマ曲が被さっていく
敢えて機関車の騒音は無く、蒸気のシューという音だけが控えめにするのみ
この音楽が本作全体のムードを支配しており、華やかな国際列車での殺人事件を陰惨さから切り離している見事さ

謎解きシーンでのフラッシュバックで同じシーンが繰り返されるようで、実は違う撮り方で見せて違う印象で同じシーンを見せているのも効果的

何よりポアロ役のアルバート・フィニーの役作りと演技が素晴らしい
見事に原作の中のポアロが実体化している
撮影時30代だったというから、そのメイクは半端ない
終盤の謎解きシーンの長台詞は圧巻、もちろんそれに至る過程でのうざいポアロをこれもまた見事な演技で再現してみせている

あのイングリッド・バーグマンが、敢えて地味な女性役を演じてアカデミー助演女優賞を獲っているが、自分としては陰険なアメリカ女性役のローレン・バコールが良かった
厳つい表情での人物紹介シーン、殺人シーンで彼女の表情をカメラが捉え続けるシーン、ラストシーンの乾杯でみせる笑顔との落差が本当に素晴らしい心に残る名シーンだと思う
そして美しかった

本作の監督にシリアス派で知られたルメット監督が選ばれたのは、やはりほとんどのシーンが密室劇になるからであろう
もちろん彼の出世作は密室劇の永遠の金字塔「十二人の怒れる男」だからだ
そのプロジューサーの目論みは大成功しているばかりか、それ以上の成果を挙げている
何故ならルメット監督、娯楽作品を撮っても一流であったことを証明して見せたのだから

プロジューサーの眼力、ルメット監督の実力、名優達の熱演
名作になるわけだ

あき240