雨の九段坂
劇場公開日:1962年5月30日
解説
「黒い三度笠」の浅井昭三郎が脚本を書き、「すっとび仁義」の安田公義が監督した人情もの。撮影は「黒い三度笠」の本田平三。
1962年製作/72分/日本
配給:大映
劇場公開日:1962年5月30日
ストーリー
京都の場末の下請工場の職工たちには、暗い過去をもつ少年が多かった。だが、お人好しの主人隅田夫婦や身のまわりの世話をしてくれる親切な小母さんの許で、毎日明るく働いていた。ぎんはこの寮の片隅に住んでいるのだが、一人息子の戦死を信じ切れないぎんは、いまだに遺族年金には手もつけようとしなかった。月に一度舞鶴港に行って息子の幻に話しかけるのが彼女の習慣だった。ある日、ぎんはそこで早苗という娘と知り合った。偶然にも、翌日早苗はぎんの工場へ入社した。美人の御入来で工員たちは大騒ぎ。そんなある夜、血だらけの少年が転げ込むように入って来た。少年は勇といい、ネリカン帰りの戦争狐児だった。宿なしの男を、ぎんは工場主に頼んで使ってもらった。工員の中には、勇をうさん嗅さそうに見るものもあり、勇も打ちとけようとしなかった。そんな男のなかば捨鉢な機械操作のため同僚の一人が怪我をしてしまった。男は詑び一ついおうとしない。工場の仲間は、勇をつれだし鉄拳の制裁を加えた。かけつけたぎんは、勇に激しい平手打ちをくわせた。夜の街にとび出した勇は戻ってこなかった。心配してさがしに出たぎんと早苗は、不良仲間にいじめられている勇をみつけ出した。危いところを救われた勇は、はじめてぎんや工場の人々のやさしい心に涙ぐんだ。工場は再び明るくなったが、そんな時突然、早苗が遺族代表の一員としてハバロフスクの日本兵墓地へ参拝にゆくことになった。ささやかな歓送会の最中、刑事が現われて勇を連行した。容疑はすぐはれたものの、ぎんに迷惑をかけまいとして勇はどこへともなく姿を消してしまった。シベリヤの土をぎんのみやげに、早苗が婦って来た。息子が生きていると信ずることが唯一の生き甲斐であったぎんだが、息子の死を認めないわけにはいかなかった。ぎんは勇をさがし出して息子のかわりに育てることを決意し、勇のあとを追って東京へ--。やがて再会した二人はしっかりと抱き合うのだった。