「「全位一体」の劇画調作品〜好きじゃないのに観てしまう」犬神家の一族(1976) Haihaiさんの映画レビュー(感想・評価)
「全位一体」の劇画調作品〜好きじゃないのに観てしまう
1976年公開、角川映画(配給・東宝)
【監督】:市川崑
【脚本】:長田紀生、日高真也、市川崑
【原作】:横溝正史『犬神家の一族』
【音楽】:大野雄二
主な配役
【金田一耕助】:石坂浩二
【野々宮珠世】:島田陽子
【犬神佐清】:あおい輝彦
【犬神松子】:高峰三枝子
1.奇跡のチームによる大ヒット作
◆角川春樹(角川書店)の映画製作デビュー
角川春樹は、邦画を変えた。
一種の革命を起こした、と解釈している。
不世出のビジネスパーソンの一人だろう。
旬を過ぎた横溝正史の作品を第一作にするあたり、
ただの新しもの好きではない。
嗅覚が研ぎ澄まされている。
余談だが、家業の出版でもいくつも新企画をヒットさせている。→大失敗もしているが。
◆正統派・市川崑、スポーツ記者上がりの日高真也、『キャプテンウルトラ』の長田紀生による、挑戦的で劇画調の脚本(※あくまで個人の感想w)
『野火』、『ビルマの竪琴』の市川崑だけでは、この作品はできなかったろう。
私は、長田紀生による子供向け番組『キャプテンウルトラ』の大ファンだった。
※小林稔侍が、キケロのジョー、として助演していた例のヤツだ(笑)
サントラをせがんで買ってもらったほど好きだった。
挿入歌の歌詞も、長田が書いている。
ちなみに、今も『キャプテンウルトラ』、『宇宙のマーチ』、『ハックとジョー』は歌詞カードなしに歌える。
横溝正史の原作から変更された部分もあるし、
原作は(本作も)、人間関係がかなり複雑で、上映時間の中で消化しながら理解するのは難しい。
たとえば、
青沼静馬と野々宮珠世は、叔父と姪である、なんてことは即座にはわかりにくい。
だが、極論を言えば「分からなくても面白い」という脚本になっている。
長田の世界観やノウハウが、
角川春樹が作りたかった方向性と、市川崑をつないだのではないか、と勝手に想像している。
◆ヒットメーカー・大野雄二による、やはり冒険的な音楽
3人共作の脚本に、大野雄二書き下ろしのテーマ音楽が加わり、見事な劇画調の作品として仕上がった。
この奇跡のチームによる化学反応を、角川春樹が期待していたかどうかは知る由もないが、
結果的には、私にハマったし、製作費の7倍もの収入を見ても成功したと言っていいだろう。
2.俳優たちの名演
本作以降、石坂浩二は金田一耕助そのものになった。
高峰三枝子や島田陽子といったメインキャストもそうだが、
小沢栄太郎、加藤武、大滝秀治、坂口良子、寺田稔、岸田今日子といった脇を固めた皆さんが、見事に作品の一部になった。
3.まとめ
同じ原作で今日まで、3回映画化された。
本作の前と後で1回ずつだ。
リメイク版も観た。
BSの番組表をたまに見ると、本作がある。
「あー、またやってるわ。」
と言いつつ、何度も観てしまう(笑)。
やっぱり、凄い作品なんだろうと思う。
何回観ても、怖いのだ。
私は怖い映画があまり好きではない。
よって、本作も好きな映画ではない。
だが、、、
原作、キャスティング、脚本、映像、演出、ロケ地選定、音楽、製作陣の野心…
三位一体どころか、「全位一体」の作品だと思う。
☆5.0