「犬神家がいる世界を饒舌に語る美術とカメラワーク。その落ち着き。」犬神家の一族(1976) すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
犬神家がいる世界を饒舌に語る美術とカメラワーク。その落ち着き。
◯作品全体
物語としての面白さはもちろんだが、落ち着いた美術とカメラワークに圧倒される作品だった。
奥行きの広さを感じるレイアウトがあって、周りには年季の入った生活感ある建物が取り囲む。山国特有の閉塞感とでも言うのだろうか。登場人物が行き来する空間はあれど、犬神家が支配する空間にとどまらせるような印象の作り方が巧い。
例えば那須駅から那須ホテルまでの通り道。序盤で那須ホテル女中・はるが道案内をするときには入り組んだような道筋を話すが、画面で映されるのは大通りの一本道だ。金田一が犬神家へ向かうときの通り道も、俯瞰で画面を真っ直ぐに貫く道を示す。ただ、必ずその脇には年季の入った茶色い木造の建築物が取り囲む。那須ホテル自体も廊下は奥まで見えるようになっているが、部屋との距離が近く閉塞感を感じる。今の時代にこの美術をみると「昭和レトロ」という美しい響きとして捉えることもできるが、それだけでなく、生活臭が感じられる本作は「不気味に狭い空間」としての効果も感じられた。
そしてその効果を助長させるのは、落ち着いたカメラワーク。常時少しカメラ位置が高くなっていて、それは登場人物が畳の部屋に座っていても変わらない。姉妹それぞれの思惑を俯瞰して整理するようなポジションで、関係性の見通しをセリフのみならずカメラ位置からも作り出していたように感じた。特定の人物に寄ったり、リアクションを捉えるアップショットに頼ったりしていない分、物語が過度な表現になることが少ないのがとても良かった。
そしてそんな静謐と混迷を音で彩る劇伴も素晴らしかった。大野雄二によるシックで不穏な世界観の演出。ここぞという場面で主張してくるところも含め、素晴らしい劇伴だった。
殺人事件が内包する「奥行きの深さ」と「世界の狭さ」を美術やカメラワーク等で演出することで、この作品にしか作り出せない雰囲気を纏わせていた。
◯カメラワークとか
・遺言状を読み上げるシーンで、庭から座敷を映すカットで猿蔵をガラスの反射で映すカットがすごくかっこよかった。カットを割らずに情報量を増やしたり、直接映さないことで不穏な空気を纏わせたりする演出がとてもいい。他だと珠世の部屋に佐清が居たときの場面で渡り廊下の奥に影を見せるカットも良かった。
・序盤で珠世の乗ったボートが沈みそうになるシーンではジャンプカットを使ってたり、佐武に襲われたことを回想するシーンではハイコントラストのモノクロカットがあった。
◯その他
・那須ホテル女中はる役の坂口良子が美人。単純に美人なだけじゃなくて、令和の涙袋大きめな地雷系女子っぽい美人さなのがすごく印象に残った。
・金田一の有能描写、誇張しない感じが凄く良い。まわりの人物がそんなに金田一をヨイショする発言をしないというのもあるし、手元に転がり込んできた情報を金田一がうまく紐解いている感じ。それでいてキャラが立ってるんだから、素晴らしいバランス感覚だと思う。
・殺人現場とかで「ギャー!!!」って叫ぶ場面が多かったけど、ちょっとギャグっぽかった。菊人形の現場で金田一が「ギャー!!!」って叫んだ後、すぐ古館に話しかけるところとかギャップがすごい。