「《よき・こと・きく》この物語を市川昆監督はラヴストーリーだとおっしゃったけれども、私としては「どんな性悪女でも自分の息子だけは可愛い」という母物だと思っています。」犬神家の一族(1976) もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
《よき・こと・きく》この物語を市川昆監督はラヴストーリーだとおっしゃったけれども、私としては「どんな性悪女でも自分の息子だけは可愛い」という母物だと思っています。
😳反省:良く考えたら市川先生の仰ったラブストリーというのは、あおい輝彦・島田陽子(RIP)間のラブストリーじゃなくて、あおい輝彦・高峯三枝子の母子間のラブストリー(近親相姦的な意味でなく普通の母子愛です)だったんですね。⭕ここから先はネタバレなので未だ観てない人は読まないで。あおい輝彦が自分の身を犠牲にしても庇おうとしたのは恋人ではなく母親だったものね。でも母物であるという指摘も当たらずとは言え遠からずでしょ。
(原作既読)①この映画が公開(今振り返るとすんごい宣伝作戦だった、さすが角川!)されるまでは、横溝正史の事は全然知らなかったけれど、原作を先に読んですっかり横溝ワールドにはまってしまい有名どころは忽ち読んでしまった。そういう意味では私の人生で思い出深い映画。②原作を先に読んだ場合(私は基本的に読んでから観る派)の常で、どうしても自分の中にイメージが出来てしまうから後だしの映画にとっては比較されて不利になりますわね。③この映画の場合、横溝ワールドのおどろおどろしたところ、禍々しいところ(横溝正史の小説はあくまで本格探偵小説でおどろおどろしさや禍々しさはトリックのカモフラージュなのですが)を、市川昆監督の軽妙な演出が上手く緩和して上等な娯楽作品に仕上がったので角川映画の出発点としてはラッキーだったと思う。また、先に公開されてヒットした『オリエント急行殺人事件』の手法を取り入れてオールスターキャストにしたのも映画の豪華さを盛り上げて成功だった。勿論、製作費はべらぼうに掛かっただろうけど大ヒットしたので元は取れたでしょうね。この頃の日本映画でヒットすると言えば寅さんかアニメぐらいだったので、そういう意味では角川映画が日本映画産業に与えた影響は無視できないと思う。④さて、映画自体の出来ですが、先ずはタイトルバックの斬新さと背景に流れる「愛のテーマ」で掴みはばっちり。⚪坂口良子の女中は原作より大きな役となっているが映画に軽妙さを与える上で貢献している。映画的な改善と言える。△島田陽子:タイプとしては適役。何せ原作では絶世の美女となっているので当時の邦画界では他にピッタリの女優はいなかったでしょう(他社から借りだされたのもわかろうというもの)。この後TVでも横溝正史ものは何本も製作されているが、「犬神家」については未だ島田陽子以上の適役には巡りあえていない。リメイクの松嶋菜々子はもっての他。但し、演技は下手。もう少し上手ければ市川監督の意図するラヴストーリーとしての『犬神家』が強調された、と思うのだが。△三絛美紀:竹子は原作ではかなりのデブである。「太った女性に見られがちな人の良さは全くなく底意地の悪さは姉妹一かもしれない」と描写されている。まさか、京塚昌子や春川ますみに性悪女の役をやらすわけにもいかないだろうから、(どういう選択理由からかはわからないけれど)三条美紀をキャスティングしたのだろうが、松子役の高峰三枝子の貫禄、梅子の草笛光子の中年女の崩れた色気(市川昆監督にわざと着物をだらしなく着るようにとの演出指示があったらしい)(尚、この映画では草笛光子が一番のお気に入り)に挟まれて影が薄くなってしまって気の毒。⚪川口晶:実の兄の川口亘と恋人役というのはちょっと驚きのキャスティングだったが、背徳的なテイストを作品に与えようという意図によるキャスティングであれば、まあ成功。川口晶自身の役回りで言えば、小夜子は原作ではかなり悲劇的な役回りだが、映画の方は厳かな遺言書発表の席で「私のこと、何も書いてないじゃない!」と飛び出していくところや、屋根裏で佐智の死体を見つけて卒倒するところ(原作では“たまぎる”悲鳴を上げる)(因みに死体を屋根の上に上げるという重労働を敢えてやったり、小夜子が屋根裏に上がったのは偶々なのに都合よく死体と遭遇したり―原作では珠世を連れ込んだ犬神家の別荘で発見される―ちょっと突っ込みたいところだが、絵としてはこちらの方が映画的なのは確か)、佐清の逆さ死体を発見した時に大きな蛙を抱いていたりとややコメディリリーフ的な役割を与えられていてオドロオドロしさを緩和するのには貢献している。△大滝秀治:神主が佐兵衛翁の秘密を暴露した瞬間は、第三の殺人を用意することになるのと遺言書の謎が解けるきっかけになる中盤の大事な転換点だがインパクトが薄い。大滝秀治が悪いわけではないが、重厚過ぎるのでもう少し軽薄そうな役者でも良かったのではないか。