「このまま独裁者にやられちゃうなんてあんまりにも惨めじゃない」映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
このまま独裁者にやられちゃうなんてあんまりにも惨めじゃない
全編を通じて映画のパロディが多い作品。ジャイアンがMGMのライオンを真似たかと思いきやオープニングで『キングコング』『E.T』といった往年の名作をパロりまくる。
ミニチュアを用いた自主映画制作に奔走するのび太は、撮影の最中に小さな異星人・パピと出会う。パピは祖国・ピリカ星から地球へ逃げ延びてきた大統領だった。ピリカ星を牛耳る悪徳将軍ギルモアは、国家転覆の最終段階として大統領の捕縛を目論んでいたのだ。
とはいえパピを追って地球へやってくるギルモア軍もまたミニチュアサイズ。のび太たちは窓もカーテンも閉め切った自室にパピを匿う。しかしふとしたきっかけからギルモア軍はしずか宅に設けた秘密基地への侵入に成功する。
パピの等身に合わせてスモールライトで小さくなっていたのび太たちは、最悪のタイミングでスモールライトをギルモア軍に奪われ、あまつさえしずかを人質に取られてしまう。
これ以上恩人たちにギルモア軍の悪意が及ぶことを危惧したパピは自らの身柄をギルモア軍に引き渡す代わりにしずかを救出する。
小さいサイズのまま地球に取り残されてしまったドラえもん一行はパピを追って地球へやってきたパピの密使ロコロコと共にピリカ星へ向かう。彼らはギルモア軍に抵抗すべく組織された自由同盟と合流するが、ギルモア軍の圧倒的な力の前に戦慄する。
最終決戦の日、スネ夫がコンテナの隅で震えているところをしずかは目撃する。しずかは彼を慰めるでもなく踵を返し、涙ながらに戦車へ乗り込む。「私だって怖いけど、このまま独裁者にやられちゃうなんてあんまりにも惨めじゃない」という彼女がこぼすシーンは本作屈指の名シーンといえる。さながら富野のガンダムシリーズだ。
彼女の勇気に感化されたスネ夫は己を奮い立たせしずかに加勢する。そして幕を開けた最終決戦だが、その幕切れは呆気ない。スモールライトの効果が切れたドラえもん一行は一気に巨大化し、ギルモア軍の戦艦をミニチュアのように蹂躙する。
それまでのシリアスぶりから一転、コメディチックな展開に拍子抜けするものの、ある意味独裁の狂気はそれを上回る狂気によってしか解消し得ないというリアリズムを暴き立てているようで面白くもある。