声なき凱歌

解説

原作はE・テンプル・サーストンの戯曲で、彼自ら脚色していたが、中途にして病没した。その後をサーストン夫人が夫の計画通り進めたものである。監督はモーリス・エルヴィ、撮影はシドニー・ブライス。主役は「ウィリアム・テル(1933)」「ユダヤ人ジュス」のコンラート・ファイトで、助演者は舞台人で映画初出演のペギー・アシュクロフト、「ユダヤ人ジュス」のジョーン・モード、ゴーモン映画に出演していたアン・グレイ、マリー・ネイの女優を始め舞台人のバートラム・ウォーリス、ベイシル・ギル、フランシス・L・サリヴァン等である。

1933年製作/111分/イギリス
原題または英題:The Wandering Jew

ストーリー

キリスト受難の日にユダヤ人マタシァスは、ナザレ人イエスの面上に唾を吐いた。侮辱の罪を犯したために、彼は救世主が再び地上に帰り来るまで、主を待つべしとの罪を負わねばならなかった。かくして永劫の罪を抱いた彷徨えるユダヤ人は、時は流れて十世紀の半、第一十字軍の中に無名の騎士として、敗れることを知らぬ武勇の名を持っていた。美しい人妻ジョアンヌは彼の魅力に引きつけられたが、彼が彷徨えるユダヤ人であると知っては、妖しい夢も覚めて逃げ去るのであった。それから更に二百年を経てユダヤ人はシシリイ島パレルモの街に、富める商人となって現れた。しかしここでも彼は探し求める主にめぐり合うことは出来なかった。愛する妻ジャンネラは彼を棄てて僧院の奥深く姿を隠した。丁度街にはユダヤ人の迫害が始まり、彼は三度果無き巡礼の旅へ彷徨った。それからすでに三百年、キリスト十字架にかかり給える日より千五百年を経て、スペインのセヴィラでは異教徒糺問の調べが厳重に行われていた。彷徨へるユダヤ人は医師バタディオスとして、貧しき者の味方と敬い慕われていた。彼は傷つける淫売婦オララを治療してやったが、間もなく彼女の魂も彼によって救われて来た。二人はキリスト教について語り合ったが、彼の言ったことから宗教裁判所の嫌疑を受けた。同じユダヤ人のザポータスの密告によって、バタディオスは逮捕された。異教徒であり、神を恥ずかしめたるユダヤ人として彼は火刑を宣告された。バタディオスは恐るるところなく、今ぞ彷徨へるユダヤ人の果てし無き旅の終わりであり、キリストに許される時であると信じ、甘んじて刑を受けた。天から一條の光が流れて、柱に縛られたユダヤ人の身を包んだ。「あれは何の光だろう」と人々は怪しんだ。「キリストの光です」と答えたのは、群衆の中で泣き悲しんでいたオララであった。その時、ユダヤ人の頭は前に垂れ、永遠の苦悩の旅も終わったのである。

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