グリンカ
劇場公開日:1948年10月
解説
一九世紀のロシアの生んだ大作曲家ミハイル・グリンカを描く伝記映画である。シナリオおよび演出を担当したレフ・アルンシュタムはセルゲイ・ユトケヴィチの門下であり、「黄金の人々」「女友達」「友達」等の他、女パルチザンを描いた「ゾーヤ」の演出者として著名である。美術のウラジミール・カプルノフスキイは「セヴァストボール防衛戦」の美術家で、この作品ではふるいオペラ『イワン・スザーニン』の初演場面を再現するため一〇〇年前のペテルブルグ劇場の舞台面をこしらえあげている。音楽のヴィッサリオン・シェバリンは、共和国功労芸術家の称号をもち、現在モスクワ音楽学校教授であり、ソ連一流の作曲家である。初期の作品に交響曲「レーニン」があり、一九四二年「スラヴ四重奏」四六年合唱曲「モスクワ」でそれぞれその年のスターリン賞一等をえている。主演のボリス・チルコフはマキシム三部作の演技によりスターリン賞を得た舞台俳優であるが、一九二八年いらい「教師」「ドン・キホーテ」「チャパーエフ」等の映画にも出演している。少年時代のグリンカにふんするサーシャ・ソボレフは中央児童音楽学校に在学中であり、農奴ウリヤヌイチにふんするワシリー・メルクーリエフは五七年度の「シンデレラ」にも出演している。なお本作品は一九四六年度にスターリン賞二等に入選しており、演出家、カメラマン、美術家、俳優四名が賞を授けられた。
1946年製作/ソ連
原題または英題:Glinka
劇場公開日:1948年10月
ストーリー
一八〇四年、グリンカはスモレンスク県ノヴァスパスコエ村の地主の長男として美しい鴬の声とともにうぶ声をあげた。一八一二年、彼が八歳のとき、ナポレオンのロシア侵入がはじまり、グリンカは両親たちにつれられて非難したが、途中前線に向う義勇兵たちの姿をみて彼らのはげしい祖国愛の気持につよくうたれた。二年後、戦いすんだ一八一四年、平和にかえったグリンカ邸では子供のための夜会がひらかれた。グリンカは、村の娘たちの唱う民謡に心をひかれ、池のほとりに少女たちをあつめて合唱の指揮をとった。そのころから、グリンカは少年ながらも「音楽は自分のたましいだ」という信念が培われ、こうした少年時代をへて、やがて彼の聖ペテルブルグの生活がはじめられた。ある日、彼は夜会の席上で師団長夫人アンナ・ケルンに会い、その美しさに心ひかれる。彼はその場でロシアの牧歌を即興的に弾き、プーシキン、ジュコフスキーたちと知り会い、彼らの急進思想の洗礼をうけた。一八二五年十二月、多くの人民達は皇帝の圧政にたえかねてたちあがったが、政府軍の銃火のもとに、あるいはたおれ、あるいは傷ついた。オーケストラの修業中だったグリンカもこの暴動で避難したが、そこは偶然にもアンナ夫人の邸だった。夫人は自分のプーシキンにたいする思慕をほのめかし、プーシキンが夫人にささげた詩を彼にみせるのだった。やがて、夫の転任に従ってリガに赴く夫人から手紙でこの「わが前にあらわれし汝」の詩の保管を依頼される。彼はこんどの暴動で多くの農奴たちが生命を失ったことを知り「音楽によって人生の目的、かなしみ、よろこびを、そして人民の夢を語ろう」と決心する。それから、彼の放浪生活の幾年かが流れていった。一八三三年イタリアのミラノで彼はロシア的なグランド・オペラの創作に自分の使命があることを悟り、急ぎ帰国した。そして、ある夜会の席でジュコフスキーから「イワン・スサーニン」のオペラ化のヒントをえて、その作曲に心をうちこんでゆく。間もなく彼は夜会で知りあったマリアと結婚したが、この結婚はグリンカにとって不幸の第一歩であった。オペラ「イワン・スサーニン」が完成に近ずいたころ、グリンカとその協力者ローゼン男爵との間に、皇帝にたいする考えについてはげしい対ができた。グリンカは「自分のオペラの主人公は皇帝でなく人民で、一百姓だ」と主立主張した。だが、オペラ試演の日、男爵が現れて、このオペラは以後「皇帝にささげる生命」と題することになったと告げる。こうしてオペラは大成功に終り、プーシキンも感激したほどだった。しかし、それから二ヶ月も経たぬうちに、親友プーシキンの死にあい、グリンカは大きなショックをうけた。その葬儀の当日、グリンカは成人したアンナ夫人の娘カーテニカに会いその美しさにおどろく。親友プーシキンを失ったかなしみを抱いて帰宅した彼は、妻と近衛士官との密会を発見し、激怒と失意のままカーテニカの許へ走るのだった。彼女の体は、結核のためこの春までの生命なのであった。春がきた。今日も病床を見舞うグリンカにカーテニカは「私の心はいつもあなたの音楽のなかに生きています」と、彼女の死をかなしむグリンカをながめつつ静かに眼をとじるのであった。
スタッフ・キャスト
- 監督
- レフ・アルンシュタム
- 脚本
- レフ・アルンシュタム
- 撮影
- A・シェレンコフ
- 美術
- ウラジミール・カプルノフスキイ
- 音楽
- ヴィッサリオン・シェバリン