山師ボオトラン
劇場公開日:1948年4月
解説
文豪バルザックの『親爺ゴリオ』他三四作の登場人物山師ボオトランを中心人物としてフランス文豪の大先輩、アカデミイ会員のピエール・ブノアが潤色、監督のピエール・ビヨンとマルク・ジルベール・ソーヴァジョンの共同脚色、監督のビヨンは戦前「第二情報部」「南方飛行」でその作品を知られている。撮影はポオル・コトレ、音楽はモーリス・ティリエの作曲でコンセルヴァトワァルの会員の演奏。主演者としては「悲恋」のマドレーヌ・ソローニュ、「旅路の果て」のミシェル・シモン、二枚目のジョルジュ・マルシャルに、「望郷(1937)」「影の部分」のリーヌ・ノロ「美女と野獣」のマルセル・アンドレその他フランス映画の特徴である腕達者の傍役で作品に厚味を添えている。
1944年製作/120分/フランス
原題または英題:Vautrin
劇場公開日:1948年4月
ストーリー
ロシュフォール徒刑場から脱け出した脱獄囚のボオトランは相棒と二人で仲間が隠匿して置いた金貨を掘り当てた。折柄通りかかったスペインの僧りょにその場の有様をみられて相棒は慌ててピストルで僧りょを射殺してしまった。神聖な僧りょを殺す奴があるかと怒りにかこつけてボオトランは若干の金貨を投げ与えて相棒を追払う。金貨の山はボオトランの独り占めとなったのだ。そして自らスペイン王フエルディナンド七世の密使カルロス・ヘルレァ司教と称してパリで一もん着起そうと彼は馬車を仕立てて道を急いだ。途中休憩のために入った宿屋で挙動不審な眉目秀麗の青年に行き遭う。様子がおかしいので後をつけて行くと投身自殺を図ろうとした。彼は一万五千フランの借財のために窮して自殺より他に選ぶ道はなかったのだ。ボオトランは奪い盗った金貨でこの青年の身体を買った。パリの社交界でひと波らん起して甘いしるを吸おうという大山師ボオトランはその道具に青年リュシアンを買ったのだ。パリの社交界に打って出たリュシアンはボオトランの思惑通り果然貴婦人、令嬢たちの注目の的となり、ボオトランの謀略の筋書によってリュシアンは名門のクロチルド・ド・グランリュウの心を奪ってしまつた。然しある夜の舞踏会で偶然に行き会ったリュシアンと高等内侍のエステルとは互いに強い力でひき合い、会う瀬を楽しむ仲となった。山師ボオトランの目論見は外れかけて来た。リュシアンとエステルとの仲を割き、エステルに懸想するパリ随一の富豪ルッチゲン公爵を絞り上げようという一石二鳥の謀略を考え、まずエステルを脅迫して十五万フランの借用証書に署名させ、その窮情を訴えさせてルッチンゲンからその額面をまき上げた。エステルは結局身を殺して恋に生きるべきか、心を殺してルッチンゲンの囲い女になるか、何れかの道を選ばねばならなかった。金貨よりも恋は強く彼女の選んだものは毒薬をあおって恋に生き身を滅すことだった。彼女の死に他殺のけん疑がかけられてボオトランは捕えられた。同じ容疑者として捕えられたリュシアンは判事から自殺の際彼に当てたエステルの純情な遺書に心を打たれ、ボオトランに対する憤怒の余り、ボオトランの罪状を逐一述べてその陳述書に署名した。ボオトランの運命はここで絶ち切られるかと思ったが、リュシアンを慕うクロチルドはリュシアンの身を想う余りその陳述書を焼き捨ててしまった。しかし時は既に遅くリュシアンは獄舎でい死して純情な恋人エステルの後を追って行った後だった。検事総長も富豪もこの世に恐しいものとてはない天下の山師ボオトランはまたしても釈放されたが、唯一つ彼の力の及ばぬもののあることを知った。それは純情な恋人同志の心情であった。リュシアンとエステルの塚の前に独りたたずんで極悪人ボオトランの眼に光るものが浮んでいた。
スタッフ・キャスト
- 監督
- ピエール・ビヨン
- 脚色
- ピエール・ビヨン
- マルク・ジルベール・ソーヴァジョン
- 潤色
- ピエール・ブノア
- 原作
- オノレ・ド・バルザック
- 作曲
- モーリス・ティリエ
- 指揮
- シャルル・ミュンシュ
- 音楽演奏
- コンセルヴァトワァルノ会員