「なにかを犠牲に何かを得ようとするキャラクター、そして編集が印象的。」男たちの挽歌 すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
なにかを犠牲に何かを得ようとするキャラクター、そして編集が印象的。
○作品全体
キャラクター(俳優)を見せたい、という表現は色々ある。そのキャラクターを画面に映す時間を増やすというのもそうだし、そのキャラクターを様々な舞台に配置するのもそうだ。音楽で演出することもできるし、特徴的なカメラワークで魅せることもできる。
本作は、メインキャラクターを見せるための編集が印象的。シーンとシーンのつなぎ目を省略することで、キャラクターの所作にフォーカスを向けさせる。そういった意図を感じた。
序盤で印象的だったのはホーが父に会いに行くシーン。キットと父のいる病院で合流し、キットの彼女も交えて談笑する。そこはコメディとも言えるくらい陽気で明るい空間だが、カットを割ってホーと父だけのシーンになると一転、悲しげなBGMとともにホーの生業に釘を刺す父。カットごとのテンションのアップダウンが激しすぎて驚いたが、ホーのもつ「親しみある兄」という顔と「極道に生きる男」という二面性を強調することもできる。
ドラマを描く、という視点からすると、間に心象風景を挿入したり、ホーの感情のグラデーションを作る緩衝材のようなカットを挟んでも良いのではないか、と感じるが、キャラクターを描く、という意味では強い印象を残す演出だった。
マークに関してはもっとエッジが効いていた。ホーの仇討ちをしたあとから3年間、マークがなにを考えていたのか、という部分に関しては画面内では映すこともなく、ホーに「待っていた」と告げるのみ。ホーの「取り戻したい」という感情だけを鋭利に研ぎ澄ましたように、カメラもその姿だけを映し続ける徹底さが面白い。
たばこを加える仕草、ホーを見つめる目、足を引きずるシルエット。こうした所作をどれだけ魅力的に見せるか。そのためにあるシナリオ、そして編集だったと思う。
ホーもマークも、そしてキットも、なにかを失ってなにかを得ようと足掻く「男たち」だ。この作品自体もシーンとシーンとの「間」を犠牲にする代わりに、キャラクターの魅力を際立たせる。それぞれが失うことを選んだ決断と一本気なスタンスが、まさしくハードボイルド。そんな作品だった。
○カメラワークとか
・マークがホーのかたきを討つために楓林閣へ乗り込むシーンがかっこよかった。ゆっくりとドアを開けて現れるサングラス姿のマーク。その空間に馴染まない姿が、ゆっくりと浮かび上がってくるような黒の姿がとても良い。
本作は銃撃戦のスローモーションよりも人が現れる、いなくなるときのスローモーションが一番かっこいい。シンがホーと口論して、シンと会うのが最後になるシーンとか。
・マークがフィルムを奪いに行くシーンの冒頭は地下駐車場のど真ん中をゆっくりと歩いていくシーンから。ここのシーンだけは明確にシーンとシーンの「間」があった。マークへの花道を作ってあげているような感覚。
○その他
・どうしてもいろんなところに古さを感じてしまう。かっこいい古さであれば良いんだけど、シンセっぽいBGMとかはむしろトレンディっぽくて、世界観が軽くなってしまう印象。序盤の関係性を示すシーンも作為的な芝居やセリフが多いのもそう。
・終盤、マークがボートに乗って引き返してくるところが一番好きだ。一人逃れたところでマークの臨む「取り戻す」は取り戻せない。そう気づくまでの時間と、気づいた後の腹をくくった表情。マークというキャラクターに踏み込んだ芝居だった。
・2丁拳銃かっこいいなあ。チョウ・ユンファのポージングもかっこいい。黒の外套、黒のサングラスとの相性もいい。