ニーナ・ペトロヴナ
解説
「ハンガリア狂想曲」と同じスタッフで製作されたエリッヒ・ポマー・プロダクション、即ちハンス・スツェケリー氏原作、ハンス・シュワルツ氏監督、カール・ホフマン氏撮影になるものである。主役は「金」「妖花アラウネ(1927)」「バーデン・バーデンの醜聞」のブリギッテ・ヘルム嬢で、「パンドラの箱」出演のフランツ・ホフマン・レーデラー氏と「パンチネロ」のウォーウィック・ウォード氏とが相手役を勤め、ハリー・ハルト氏、リア・ヤン嬢等が助演している。(無声)
1929年製作/ドイツ
原題または英題:The Wonderful Lie of Nina Petrovna Die Wunderbare Luge der Nina Petrovna
ストーリー
ロシア帝政時代の末、氷の都聖ペテルスブルクに巨富を擁している何某といえる貴族は近衛の大佐として栄耀を極め、愛妾ニーナ・ペトロヴナを金愛していた。ニーナは虚栄生活を夢のように心無く送っている愚かな無自覚な女であった。或朝起きると直ぐに露台に立って近衛騎兵隊の行軍を眺めていた彼女は若い少尉の真面目らしい姿にふと興を惹かれ薔薇の花を投げ与えた。其の少尉はミカエル・アンドレイヴィッチ・ロストフという地方の青年で最近衛騎兵隊に抜擢編入された模範士官だった。ロストフの上官達は其の夜彼を一流の料亭に案内して都の女の味を知らせてようとした。ところが其の料亭には偶然ニーナが大佐に伴われて来ていた。ロストフは朝もらった薔薇をまだ持っていた。二人の再会の喜び。ニーナは大佐に未知の青年を幼馴染だと云った。大佐は嫉妬を感じながらも粋な旦那らしく少尉を自席に招じた。少尉はニーナとワルツを踊った。ニーナは別れ際に鍵を与えた。夜更けてロストフは女の家を訪れた。女を知らぬ若者はニーナの媚態の意味を解せず唯だ麗しと歎称の眼を瞠るのみだった。此の純情はニーナにとって寧ろ不可思議であった。そして喜びとなった。二人は扉を隔てて別室に眠った。翌朝大佐の嫉妬はニーナを駆って家出させた。彼女は少尉を侘しい借間に伴って来た。若者は生れて初めて愛する女に接吻した。貧しいけれども幸福な生活が続いた。或夜将校集会所でロストフは上官達とポーカーをしていた。そこに現れた大佐は仲間に入れてくれと云った。ロストフは運が良かった。勝ち続けた。併し最後に大佐は幸運を掴んだ。ロストフは負けてはならじと思った。瞬間彼の欲するカードが卓の下に落ちているのを認めたロストフは思はずもカードをすりかえようとした。大佐の手は卓の下から其のカードを押えた。ロストフは胡魔化し賭博を働かんとしたる事相違無之候の一礼を大佐にとられた。大佐はそれをニーナに示して少尉の運命をお前に任せると云った。少尉は証文をわけなく返して貰えたので喜び勇んで七留半の女靴を買ってニーナの許に戻った。そんなボロ靴を穿き度くない、とニーナは嘘を吐いた。憤ったロストフは席を蹴立てて去った。ニーナは翌朝大佐の妾宅の寝室に七留半の靴をはいて横っていた。大佐が訪れた時冷たくなったニーナの骸の傍に毒薬の瓶が転っていた。