死滅の谷

解説

映画の取材も、思想の方面も、技術方面の出来もすべて一風変わったデクラ・ビオスコープ社の作品である。原作及び監督はフリッツ・ラング氏である。俳優には馴染多い人の顔が沢山見える。「岡寺の観音」「カリガリ博士」等のリル・ダゴファー嬢、「白痴(1921)」出演のワルター・ヤンセン氏、「カラマーゾフ兄弟」「世界に鳴る女」等のベルンハルト・ゲツケ氏の三人が主役である事は先日上映の同社映画「死人島」と同じである。其の他「ドクトル・マブゼ」主演のルドルフ・クライン・ロッゲ氏も主要な一役で腕を振るっている。無声。

1921年製作/ドイツ
原題または英題:Between Two Worlds Der Mude Tod

ストーリー

夢の谷間の小さな町、割なしや恋い恋わるる二人の若人、一時も離れ難く暮らして居たが、死の神こそ涙なけれ、男はその誘うままに此の世を去ってしまった。女は斯くて後、丘の上、山の奥、谷の底、焦るる男の跡を追ったが現世になき男に遭わん筈もなく、一日ついに死神に逢った。女は彼にひたすら男を還せと迫ったが、死神は三本の蝋燭の光を人生に例えて、死生命ありいやしくも縮めたり延ばしたりする事は出来ぬ、若し愛の力を以て死に打ち勝てると思うなら、此の蝋燭の物語を聞いて自ら悟れと、第一の蝋燭の、カリフの宮の姫君が満身の恋の力を以てしてもついに死の威力には勝ち得ざりし事、第二本目の語り、フィアメッタ嬢がギョヴァンとの恋を遂げ得ず自ら死期を早めた事や、又第三本目には、中国に場所を取りチャオ・チェンとリヤンの恋が叶わず死の神に征服された実例を挙げて、如何にしても死神には勝てぬ事を納得させた。併し女は尚執念く男の生命を還す方法を問う。此の世に余命ある人から生命を譲って貰ったら男の生命も還せると聞いた彼女は、或いは老年の薬種屋に或いは生甲斐なき乞食爺に生命の譲渡を申し出るが、皆一刻一刻も生命は縮められぬと断った。やむなく男の跡追うて死を決心したが、未だ死期も来らぬ者に死を与える訳にはまいらぬと此も意の如くならず、生命の事は神の命のままなれと諭されたという。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

圓朝 現る

2024年8月29日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 若くして亡くなった恋人の男を生き返らせてくれと死神と交渉する女性の物語で、百年前のドイツ映画の巨匠フリッツ・ラングの作品です。

キッチリ組んだセットと計算された構図の重厚な物語は、大掛かりなオペラの舞台を見る様な荘厳さで、ヨーロッパ美術の伝統を感じます。同じフリッツ・ラング作でも、以前観た『メトロポリス』の先鋭的な作風とはかなり異なる肌触りでした。また、柳下さんのピアノは、今回の様な欧州映画の方が音が広がる感じがするなぁ・・と、これは勝手な印象。

 ちなみに本作では、死神は一本一本に火を灯した蠟燭の長さで人間の寿命を管理しているのですが、

 「これって、落語の『死神』と同じじゃないか。洋の東西を問わず人間の想像ってこんなに似るものなのか」

と意外に思っていたら、上映後のトークでまさしくそのお話がありました。落語の『死神』とは、圓朝(1839~1900)が、グリム童話の『死神の名付け親』を翻案して作った物なんですって。へぇ~~! 勉強になるなぁ~!

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La Strada