劇場公開日 1976年3月13日

「間の抜けた銀行強盗がお茶の間のスターになる…?」狼たちの午後 といぼさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5間の抜けた銀行強盗がお茶の間のスターになる…?

2021年4月15日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

某映画レビューユーチューバーさんが紹介されていた本作。前々から気になっていて、今回ようやく鑑賞できました。

個人的に、本作の監督であるシドニー・ルメット監督は私のオールタイムベスト映画『12人の怒れる男』の監督でもありますので、めちゃくちゃ期待度は高かったと思います。

結論、非常に面白かった!思い付きのような粗末な計画で銀行強盗を実行してしまったために警察に包囲されてしまったちょっと間抜けた男が、周りを囲む野次馬やマスコミを巧みに扇動してテレビスターとして祭り上げられる様子は、昨今のSNSの炎上騒動などにも通じるような恐ろしさや既視感を感じました。ただ、「実話を基にした作品」にありがちなんですが、正直映画としての盛り上がりがイマイチで、『12人の怒れる男』のような爽快感やカタルシスとは異なる映画でした。後味は正直そんなに良くないです。

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ニューヨークの銀行に三人組の強盗が押し入った。しかし、強盗の一人が怖気づいて逃げ出したり金庫の中に金がほとんど入っていないなど、不測の事態が相次いで発生し、最終的には警察に包囲されてしまい、銀行に籠城する羽目になってしまった。警察との交渉のために正面玄関から外に出た強盗団のリーダーであるソニー(アル・パチーノ)は周囲に集まった野次馬たちを煽って囃し立て、次第に周囲の野次馬たちが強盗を応援するという奇妙な事態へと発展する。
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この作品、導入が非常に簡潔で分かりやすい。これは『12人の怒れる男』でも思ったことなんですけど、とにかく序盤にキャラクターの紹介や状況説明のような描写がほとんどなく、いきなり本編が始まる感じなんですよ。本作では映画開始数分後には銀行強盗してますし、『12人の怒れる男』では映画開始数分後には陪審員室に移動して激論が繰り広げられています。とにかく導入が簡潔で短くて飽きない。シドニー・ルメット監督作品の魅力の一つだと思います。

アル・パチーノ演じる強盗のリーダーも良かった。彼が何故強盗をするに至ったのかという経緯が映画の進行とともに次第に明らかになっていくのですが、彼の素性が明らかになっていくにつれてだんだん周りの対応が変わっていったりするところも面白かったですね。最初は武装した強盗に恐怖していた銀行の従業員たちも、彼らの無計画っぷりやドジっぷりを見て、次第に気が抜けていくところもちょっと笑っちゃいました。

作品全体を通じて、70年代の古い映画でありながら現代のSNS文化やポリコレ思想にも通じるようなテーマが垣間見え、全く古さを感じさせない内容になっていました。2000年代に入ってからもモデルとなった銀行強盗事件は何度もドキュメンタリー作品が作られるような、今なお語り継がれる事件です。古い映画だからと敬遠せずに、ぜひ見てみていただきたい作品でした。オススメです!!

といぼ:レビューが長い人