屋根の上の赤ちゃんのレビュー・感想・評価
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精神異常者のストーカー犯罪を扱った異色のサスペンスドラマ
恋愛劇とサスペンスドラマをミックスしたアメリカ映画だが、マーク・ロブスン監督にはヒッチコック先生の演出タッチをお手本にしたような印象をもった。ご都合主義ながら前後の関係の筋書きが練られていて、予測不可能な展開が緊張感を生む。サスペンス劇として一見の価値はあると思う。
物語はイギリス人キャシーがサンフランシスコに仕事を求めて来るところから始まる。タクシーに乗ろうとした時、あるアメリカ男性の投げた雪の球が頭に当たり、これが切っ掛けとなってふたりは知り合う仲になる。この男は当地に住むケネスという売れないカメラマン だった。それから二人の関係は急速に深まり同棲するが、キャシーは予定外の妊娠をしてしまう。この時彼女がケネスの生活費を賄う立場から、既に仕事も満足にしないケネスに呆れて別れ話が出ていた。キャシーは迷わず子供をおろしてしまう。ところがケネスの方は、てっきり自分の子供を生んでくれて結婚というハッピーエンドを信じて疑わず、堕胎を知って激高する。相談しなかったキャシーに非が全く無い訳ではないが、怒りに任せてキャシーを殺人者呼ばわりするケネスの身勝手さが痛い。ここに、安易に同棲する若者の行動を批判する作者の意図を少なからず感じながら、物語はこれを端緒として恐ろしい事件へ急変する。
ケネスと別れたキャシーは弁護士のジャックという男性と結婚し子供も儲け、幸せな家庭を築いていた。しかし、そこに精神異常者となったケネスが執拗に現れてくる。彼から追い掛け回されるキャシーは苦しめられ、それがエスカレートしていくのだが、要も無いのに赤ちゃんの写真を撮って上げると押し掛けてくるところのロブスンの演出はスリラーとして楽しめる。復讐の鬼と化したケネスが、キャシー自らが我が子を殺めるよう脅迫するところが怖い。またケネスが子供を誘拐した後、人形を車の下に忍ばせてキャシーを誘き寄せる悪戯には、観ていてドキッとさせられる。
回りくどい場面が一切なく、誘拐殺人事件をサスペンスフルに纏め、母親の母性愛を恐怖に貶めるスリラー。「名誉と栄光のためでなく」「哀愁の花びら」とは作風を異にするマーク・ロブスン監督の演出が独特なタッチを形成していた。
1979年 4月21日 フィルムセンター
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