劇場公開日 2022年10月21日

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「ニューシネマ前夜の過渡期作品に見る“男性”象」暴力脱獄 アンディ・ロビンソンさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ニューシネマ前夜の過渡期作品に見る“男性”象

2023年10月9日
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鑑賞方法:DVD/BD、TV地上波

基本的にこの作品は、所謂アメリカン・ニューシネマでは無い。
映画の歴史上で「最初のニューシネマ」とされているのは『俺たちに明日はない』と言われている。

この映画の主人公象の設定などの部分にはまだ、旧来のアメリカ映画を踏襲する“反骨精神旺盛”な男性像がはっきりと見て取れる。

これ以降のアメリカン・ニューシネマ作品の主人公に共通している、「ごく普通の優しい、または弱い(或いは情けない)男」では無い。
しかし、それ以前のアメリカ映画に登場して来たヒーロー像的な、「カッコいいタフガイ」的男性ともまた異なっている。(戦争で武勲をあげたという、過去についての言及はある)

そうした微妙な立ち位置にあるためか、この作品を初めて観た際には、どのように受け止めたら良いものか、当惑する感情もあった。
勿論、主演のポール・ニューマンが好きだったから、作品自体に不満や否定的な評価を持った訳ではない。

ただ、ストーリー的には「軽犯罪を犯して刑務所に収監された男が、そこでの強圧的な支配に対して1人抵抗を示し、周囲のものを巻き込んで行く」というように言い表すことができるようなもので、極端な見せ場や派手なアクションなどとは縁の無い、基本的に一般社会とは隔てられた閉鎖空間での人間ドラマに終始する。

周りを取り巻く囚人仲間、刑務所関係者の俳優たちが、助演男優賞を受賞のジョージ・ケネディ氏を始めとした、いずれも曲者、つわものの個性派俳優で固められており(下記に詳細)、長編劇映画作品初監督だったとはとても思えない、スチュアート・ローゼンバーグ監督による手堅い演出と、実績のあるコンラッド・ホール氏の撮影による映像がこの作品の存在を確固たるものにしていると思う。

ラロ・シフリン氏の手による哀愁を帯びたメロディも忘れられない。
運良く手に入れてよく良く聴くいた、自慢のLPレコードの一枚だった。

しかしやはり当時の日本では、この作品の取り扱いに手を持て余した(どのように扱うかを考えあぐねた)のか、驚くべき事であるが、大型の劇場での単独拡大ロードショー公開は行われる事なく終わった。

ロードショー公開が見送られたこの作品は、当時で言う“スプラッシュ公開作品”として、都市部でのロードショー公開終了後の『俺たちに明日はない』の地方公開と都市部二番館用の併映上映にて、初めて日の目を見ることとなった作品だった、という経緯を持った作品。

参考までに、アメリカでの公開が1967年11月、日本では丸の内東映パラス等でのスプラッシュ公開により'68年8月であるが、この映画の制作自体は 1966年である。
WB7(ワーナー・ブラザース・セブン・アーツ)という同じ映画製作会社の作品だった、『俺たちに明日はない』のアメリカでの公開が1967年8月、日本での首都圏単独拡大ロードショーが'68年2月、『暴力脱獄』との2本立てスプラッシュ公開が'68年8月という流れになる。
従って、本作と『俺たちに明日はない』のアメリカでの公開と日本での公開の順番が逆になっている。
本国と日本での公開時期の差が『俺たちに明日はない』では約半年なのが、『暴力脱獄』が9ヶ月後と期間が空いており、本作の取り扱いを持て余し、公開タイミングを考えあぐねていた様子が伺える。
しかし、実際には『俺たちに明日はない』についても取り扱いを持て余していた可能性も。
それはこの作品が実際に公開される前には、肝心の本国WB7(ワーナー・ブラザース・セブン・アーツ)社自体から全く期待されていないどころか、むしろ厄介者のような評価を受けていた事が挙げられる。

因みに、近い時代のWB系の当時のヒット作なら、『ブリット』『ワイルドバンチ 』『ダーティハリー』など、アメリカ本国での公開後、日本での公開は僅か2ヶ月後なのである。一般的には殆どは、半年前後くらいでの公開が多かった。

従って『暴力脱獄』は、昭和の時代には「特に名画座での公開回数が多い人気作品」でも無かった。
それ程日の当たるような存在では無かったと言える。
その逆の存在が『俺たちに明日はない』とも言えよう。
名画座のみならず、以降も、リバイバル公開も数回なされている。

今作は“映画ツウ好みな作品”と言える一編であったと思うが、少なくとも制作当時には一般的には得られ難かった正当な評価を得るまでには、更なる年数を要する事となった。

以下、登場バイプレーヤー陣

ストローザー・マーティン: 『動く標的 』(ニューマン主演)『ワイルドバンチ』『砂漠の流れ者』などのベテラン
ルーク・アスキュー:『コマンド戦略 』『イージー・ライダー』『荒野の七人・真昼の決闘』などの若手バイ・プレーヤー
モーガン・ウッドワード:日本ではTVシリーズ『保安官ワイアット・アープ』のショットガン・ギブス役で知られる
ロバート・ドナー :『エル・ドラド』『バニシング・ポイント』『ワイルドトレイル』のバイ・プレーヤー
クリフトン・ジェームス :『華麗なる週末 』『007 死ぬのは奴らだ 』&『007 黄金銃を持つ男 』の保安官『スーパーマンII 』などで超有名
ジョン・マクリアム:『華麗なる週末 』『ランボー』等
チャールズ・タイナー:『華麗なる週末 』『オレゴン大森林/わが緑の大地』(ニューマン主演)『北国の帝王 』『大いなる勇者 』
JDキャノン:『ジャワの東』『追跡者』『ロサンゼルス』日本ではTVシリーズ『警部マクロード』のクリフォード部長で知られる
ルー・アントニオ :以降は主にTV畑で活躍
リチャード・ダバロス:『エデンの東』以降は『戦略大作戦』『デス・ハント』など
ウォーレン・フィナティ :『イージー・ライダー 』(牧場主役)『かわいい女』『ラストムービー 』『マシンガン・パニック』など
デニス・ホッパー :『イージー・ライダー 』で言わずと知れた存在だが、それ以前に『理由なき反抗 』『ジャイアンツ 』『OK牧場の決斗 』『エルダー兄弟 』『奴らを高く吊るせ! 』『勇気ある追跡』といった西部劇系が多い(大体、家族内の年少弟など)、フォンダとの『白昼の幻想 』『ラストムービー 』なんかも
ウェイン・ロジャース:TVシリーズ『M*A*S*H』のトラッパー・ジョン・マッキンタイア役を3シーズン目まで、その他も出演の殆どがTV系で、日本での知名度低し
ハリー・ディーン・スタントン :『エイリアン』以降言わずと知れた存在で、それ以前は『戦略大作戦』『デリンジャー』『ビリー・ザ・キッド/21才の生涯』『ミズーリ・ブレイク』などにも
ラルフ・ウェイト :『追跡者』『ファイブ・イージー・ピーセス』『チャトズ・ランド 』『荒野の七人・真昼の決闘』とかに
アンソニー・ザーブ:言わずと知れた超ベテランバイプレーヤー、『地球最後の男オメガマン 』『ロイ・ビーン』(ニューマン主演)『パピヨン』『パララックス・ビュー 』『オレゴン魂』『ドッグ・ソルジャー』『007 消されたライセンス』『スタートレック 叛乱』『マトリックス(2・3)』など、気の毒なくらい嫌なヤツ役が多い方だけど、TV畑では『0011ナポレオン・ソロ2 』とか、『追跡者ハリー・O』のトレンチ警部補役や、NHK放送の『ヤングライダーズ 』では若者たちを見守るティースプーン・ハンター役などの好演も。
バック・カルタリアン:『猿の惑星』『アウトロー(1976)』

以上に加えノンクレジットながら確認できるのが、
ジョー・ドン・ベイカー :今作が事実上のデビュー作、以降活躍目覚ましく現在に至る『新・荒野の七人 馬上の決闘』『夕陽の挽歌』『ジュニア・ボナー/華麗なる挑戦』『突破口!』『ウォーキング・トール』(主演)『ナチュラル』『007 リビング・デイライツ』と別役で『ゴールデンアイ』、これとは同役で『トゥモロー・ネバー・ダイ』など、重要な役どころをこなすベテラン。
ジェームズ・ギャモン :日本ではTVシリーズ『刑事ナッシュ・ブリッジス』の父ちゃんニック・ブリッジス役でと超有名(?)、今作以降は『馬と呼ばれた男』『西部番外地』『メジャーリーグ』『ワイアット・アープ』『ハイロー・カントリー』『ザ・セル』など、超長いキャリアのベテラン・バイプレーヤーだった(ねずみ男のような、小狡く立ち回るキャラ多かったか?)

そして肝心のジョージ・ケネディだが、『シャレード』『危険な道』『エルダー兄弟』『飛べ!フェニックス』『特攻大作戦』などののち『暴力脱獄』で1967年第40回アカデミー助演男優賞を受賞し、'69年には主演に抜擢された『新・荒野の七人 馬上の決闘』にて、ジョー・ドン・ベイカー と再度共演している。
以降も、'70年の『大空港』を皮切りにパニック・スペクタクル系の作品には欠かせない存在感と、イーストウッド作品への出演や、なんでもこなす器用さで西部劇、アクション、ホラー、サスペンス、コメディなどに加えて、邦画の出演までと重要な役どころで広範囲に活躍した。

といったように、後年の活躍も目覚ましく、互いの接点(その後の作品被り)も有ったりする、結構凄い面々でした.... (ある意味、この顔ぶれ見るだけでも観応え十分)

最後に、同期の『俺たちに明日はない』とは、国内では同作の“スプラッシュ公開併映作品”として甘んじることとなったが、両作は他にも因縁を持っている。

それは、前述のジョージ・ケネディ氏の1967年第40回アカデミー助演男優賞受賞との関わりで、同第40回アカデミー助演男優賞のノミネート者が実は、『俺たちに明日はない』のジーン・ハックマンとマイケル・J・ポラード2人であったと言うこと。
この二人と、更に自身も出演していた『特攻大作戦』で共演のジョン・カサヴェテスまで制して、アカデミー賞ではジョージ・ケネディ氏が勝利していることは見逃せない。

なお参考までに、この年の主演男優賞は『暴力脱獄』と『俺たちに明日はない』を抑えて、強力なライバル作品であった『夜の大捜査線』のロッド・スタイガー氏が手にする事となった。

アンディ・ロビンソン