鉄路の王者
解説
「ザンジバルの西」「知られぬ人」と同じくロン・チャニー氏主演映画で、スピード活劇物の作者として有名なバイロン・モーガン氏が新たに書下した物語を氏自らアン・プライス女史と共同脚色し、「消防隊」「シンガポール」のウィリアム・ナイ氏が監督、「鉄假面」「滑れケリー」のヘンリー・シャープ氏が撮影したものである。助演者は「ローズマリー(1928)」「假の塒」のジェームズ・マレイ氏、「破戒」のジョージ・ダーイー氏、「通り魔」「波乗り越えて」のフィリス・ヘイヴァー嬢、フランセス・モリス嬢等である。音声版9巻、無声版9巻がある。
1929年製作/アメリカ
原題または英題:Thunder
ストーリー
グランピー・アンダスンはシカゴ西北幹線に永年勤務している老練な機関手だった。彼の職務に対する忠実さ熱心さは信仰の如きものがあった。職務の前には私情を絶対に許さなかった。長男ジムと次男トミーも鉄道に勤めさせ、父子一同はジム夫婦の家庭に和気靄々裡に暮らしていた。グランピーの厳格なのと几帳面なのは家族の笑いの種となっていた。父親の火夫を勤めているトミーは或日踊子のゼラと親しくなって父を不機嫌にさせたが、トミーは自分の仕事に嫌や気がさし始めていたので父の態度に彼自身も憂欝になった。たまたま一日の労働に疲れて帰宅したジムに非常勤務の呼び出しがあった時、グランピーは職務に対する信念に駆られてジムを追い立てるようにして送り出した。ところが疲労していたジムは従業中足を滑らして線路に落ち、列車に轢かれて死んで了った。流石にグランピーは愛息の死に自責の念に堪えず懊悩していた。トミーは益々憂欝になり、或日父親と共に列車運転中ジムの死について父を責めたので一徹なグランピーは逆上してトミーを殴りつけた。このため前方の信号を見損って列車は正面衝突し、父子は重傷を負った。傷癒えて退院したトミーは父親を見舞もせず、獨り漂然と家出して了った。グランピーも退院したが、身体検査の時視力不充分と宣告されたので失職せんとしたが永年の功によって工場勤務となった。其後機会を得て復職したが待遇は以前より悪くなった。ミシシッピ河が氾濫した。鉄道では救援列車を出そうとしたが濁流を突破する程の考練な機関手がいない。遂にグランピーが選ばれたが火夫がいないので探し求めた。機関手が父とは知らずにトミーが応募して火夫となった。トミーは驚いたが火急の場合凡てのいざこざを顧慮せず列車に乗込んだ。父子の必死の努力に列車は水中を驀進して遂に目的地に達して避難民を救助した。ジムに死別して以来親戚の許にいた寡婦モリーとその愛児、巡業に来ていたゼラ等もその中にいた。かくてトミーは父と和解し一家は幸福に返った。