底抜けのるかそるかのレビュー・感想・評価
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「底抜けコンビ のるかそるか」マーチン&ルイスの傑作ロードムービー!
1976年1月22日に南俊子さん解説の東京12チャンネル(現テレビ東京)「木曜洋画劇場」で観て、すっかり嵌まってしまった。当時は家庭用ビデオすら無い時代で、カセットテープに映画全編の音声を録音して、20回くらいは聴いていると思う。ディーン・マーチン(羽佐間道夫)、ジェリー・ルイス(鈴木ヤスシ)の吹き替えが楽しかった。当時は吹き替えTV洋画劇場の全盛時代でもあったのだ。ニューヨークからハリウッドまで、アメリカを横断するロードムービーの傑作だ。サミー・フェインとポール・フランシス・ウェブスターによる歌曲も親しみやすい名曲揃いで、かなりのクオリティだ。オリジナルサウンドトラックの方は、ウォルター・シャーフ作曲だが、これがまた素晴らしい。アニタ・エクバーグが本人役でゲスト出演している。同年、彼女はキング・ヴィダー監督の「戦争と平和 War and Peace ('56米=パラマウント)」にも出演しているが、共にパラマウント作品であり、且つヴィスタヴィジョン & テクニカラーと言う贅沢な仕様だ。その後、イタリアの名匠フェデリコ・フェリーニ監督が「甘い生活 La Dorce Vita ('60伊)」「ボッカチオ'70 Boccaccio '70 ('62伊)」「フェリーニの道化師 I Clown ('70伊)」「インテルビスタ Intervista ('87伊)」にエクバーグを起用しているが、本作出演時は24〜25歳であり本当に美しい。ディーン・マーチンがスチーブ・ワイリーと言う名のヤクザ役、ジェリー・ルイスが大の映画マニアの肉屋の店員マルコム・スミス役を演じているのだが、ルイスにはバスコムと言う名前の犬(グレート・デン)が居て、この二人と一頭が宝くじで当てた新車に乗ってアメリカ横断の旅をすることになる。マーチン&ルイスの漫才の様な掛け合いはいつもながらで安心して楽しめるのだが、それに加えてこの映画では名犬バスコムの存在と活躍が素晴らしい。映画史における犬の名演と言う意味でも白眉と言える出来だ。偽の当たりくじ券でルイスが当てた新車を横取りしようとするマーチンは、ルイスとバスコムを撒こうと画策するが、ことごとく失敗してしまう。監督のフランク・タシュリンは、普通なら漫画かアニメでしか描けない様なシュールなギャグを散りばめたスラップスティックな笑いとアクションシーンの数々をロケならではの魅力を活かしながら、セット撮影によるショットを巧みに織り交ぜたメリハリの効いた演出に終始しており新鮮だ。そんな笑いのシーンとミュージカルナンバーに彩られながら、舞台はアメリカ中部のシカゴを通過し、ミズーリー →オクラホマ →テキサス →ニューメキシコ →アリゾナ →ネバダ →ラスベガス →そして終点となるカリフォルニアはハリウッドのパラマウント・スタジオまで、牧歌的とも言える美しいシーンの数々に名曲が重なりながら流れる様に進んでいく。こんな展開のアメリカ映画は後にも先にもこれ一作のみである。旅の途中からは、オーディションを受ける為、同じくハリウッドを目指す女優志願のテリー・ロバーツ(パット・クローリー)も加わり、当時小学6年生だった自分にとっては夢の様な世界との遭遇であり、この映画、「このまま終わらずにずっと続いていて欲しい。」と願った程だ。当時、これほどまでに影響を受けた映画となるとミュージカルコメディのジャンルでは、「雨に唄えば ('52米=MGM)」と本作の2本しかない。「雨に唄えば」は勿論当時でも既に名作としての地位を築いており、今日ではアメリカ映画史上のベストテンに常にランクされるミュージカルコメディーの傑作なのだが、「底抜けコンビ のるかそるか」の方は一般的には高くは評価されておらず、昨日、lMDbで検索したところ、6.4点/10点だったので、まあまあの評価に留まっていると言ったところか。
ところがそれから7年以上経ってからのことだが、ジャン=リュック・ゴダールが、カイエ・デュ・シネマの批評家時代に、フランク・タシュリンとジェリー・ルイスを非常に高く評価していたことを知り、この映画も1957年にゴダールが観た映画のベストテンの第4位に選ばれていることを知って非常に驚いた。1983年の春、有楽シネマで始めて観たゴダールのロードムービーの傑作「気狂いピエロ Pierrot Le Fou ('65仏伊)」の中で、真っ赤なオープンカーに乗り、フランスを縦断する主人公ジャン=ポール・ベルモンドとアンナ・カリーナの掛け合い、そしてカリーナが風光明媚な南仏を舞台に歌い踊るミュージカルナンバーとも言っても過言ではないシーンに、如何にゴダールがタシュリンやルイスを敬愛しており、自作でオマージュを捧げているかが分かった。1976年当時、何の映画史的な知識もなく、白紙の様な状態でこの映画を観て夢中になったこと自体、別におかしくもなんともないことだったのだと言うことを理解した。更に後になって、志村けんがもっとも敬愛するコメディアンが実はジェリー・ルイスなのであり、ルイスならではの独特な笑いがやりたくて、物凄く研究していたのだと言うことを知った。そもそもドリフの笑い自体、映画に嵌る前から大好きだった訳であり、そう言う意味でもフランク・タシュリンとジェリー・ルイスと言う2人の映画作家は、やはり自分の映画人生の原点と言ってよいのである。
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