恐怖城のレビュー・感想・評価

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3.0ゾンビ映画の原典

2025年1月29日
iPhoneアプリから投稿

ゾンビ映画の原点にして原書。

【ストーリー】
ハイチに新婚旅行中のニールとマデリーンは、馬車で移動中に奇妙な光景にでくわす。
二人を見つめる不気味な男と、生気のない肌色の男たち。
御者があわててその場をはなれる。
「あの男たちはゾンビだ。声をかけたあの男は、ブードゥーの秘術で、死んだ男たちをよみがえらせて労務させているのだ」
ゾンビという聞きなれぬ言葉と、化外の地の得体の知れなさにゾッとしつつも、二人はハネムーンの日々を楽しくすごす。
だが、彼らをこの地に呼び寄せた農場主のボーマンが、美しいマデリーンをわがものにしようと、あのゾンビ使いからもらい受けた"ゾンビパウダー"を彼女に飲ませる。
マデリーンははかなくその命を散らせてしまった。
悲しみに沈むニールは酒に逃げるが、親しくなっていたブルーナー博士が、マデリーンは死んでいないとニールに伝える。

原題は『ホワイトゾンビ』。
前年に公開された『魔人ドラキュラ』、『フランケンシュタイン』といった怪奇映画のヒットを受けて、新たな怪物としてブードゥー教のよみがえる死者の伝承から引っぱってきたのが、このゾンビ。
冒頭、死者のよみがえり儀式こそおどろおどろしさがありますが、昔の映画なので、全体まったりとした空気です。
演出も、ふりむいたら怖い顔がドギャー! ワー!
みたいなカメラワークを駆使した驚かせ方とかはなく、前年に当たり役としてドラキュラを演じたベラ・ルゴシの濃い顔とドアップの目ヂカラとか、魂を吸いとられたっぽいヒロインの、まばたきしないで脱力した表情でピアノ弾きつづける三白眼とかの、なんか顔芸中心なイキフン。

それでも、ドラマのシーンはけっこう見せるアイデアもあって、奥さん死んじゃったとカンちがいした夫が、酒びたりで酒場にいると、壁にダンスしてる女性の影が落ちて、それに抱きつこうとしたりする演出は、なんとなーくエヴァのテレビ版最終回二話を思いだしました。
実写映像の手前に絵を描いて背景を足したりするマットペインティング的な、ゾンビ城の遠景なんかもあって、スケール感も味わえます。

ロメロの『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』が出てくるまで、ゾンビたちが人気にならなかったのは、その存在に怖さをおぼえなかったからでしょう。
あのですね、この映画のゾンビ、腐ってないんですよ。
ただうーあーうなってジワジワ動くだけの、生の青白いオッサンなんです。
ルゴシが目ヂカラをガーン!
生前の服着た生白オッサンたちが、うーあーうーあー画面に入ってくる。
テキトーなピアノの不協和音がゴイーン!
なぜかスローな敵にとり囲まれ、追いつめられた人物たちが、捕まったりガケから落ちたりする。
そしたら服着たマネキンが海にドボーン!
……恐怖映画にしては、ゆるーい空気なんです。

登場人物も少ないし、画面お安いなーと思ったら製作費がなんと5万ドル。えやっす。当時のレートとか知らないけどやっす。
比較対象が必要じゃね?
とウィキペディア先生におたずねしたところ、
『魔人ドラキュラ』が35万5千ドル。
『フランケンシュタイン』が26万2千飛んで7ドル。最後の7ドルなに? なぜはしょらないの?
あちこちに仕掛けられたツッコミどころで足の踏み場もないんですけど、とりあえずこの『恐怖城』が低予算映画ってのはわかりますね。
そら画面もお安くなりますわ。
ちな『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の製作費11万4千ドル。やっす。

すっかり西洋のブキミ宗教のテンプレとなったブードゥー教ですが、どうもジャーナリストを名乗るウィリアム・シーブルックって人が、過度にエキゾチックに紹介しちゃったせいなんだそうで。
日本でもさんざん邪教ネタのターゲットにされましたけど、元は地元の習俗とキリスト教がミックスされたものなんだそうで、そのへんがアメリカ人にウケるポイントだったのかもしれませんね。
うそ・大げさ・紛らわしいなんてのは当たり前、それでアメリカも儲けたし、ファクトチェックなんてしない時代だし。
ウィキのシーブルックのページ読むと、当人の人生も浮き沈みあって、けっこう楽しめます。

67分の短いフィルムなので、資格勉強のかたわらなんかに、流し見するのもいいかもですよ。

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かせさん

5.0ほんとにほんとに最初のゾンビ

2024年4月29日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:その他

泣ける

悲しい

怖い

私、とんでもない失態を晒してしまいました。「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」がゾンビ映画の始祖なんて言っちゃいましたがもっと古いのありましたね…。ちゃんと自分で調べなきゃだめね…(泣)

さて、映画史において最初にゾンビが登場したのが本作「恐怖城」。原題「White Zombie」。なんと1932年の作品とのこと。
「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」は現代ゾンビ映画のテンプレを確立させた作品で、「恐怖城」は映画界にゾンビを初登場させた作品。…って誰かが言ってました(保険)。

その内容たるやいかに!
この作品に出てくるゾンビは死んでから蘇るのではなく、仮死状態にされた人間のようです。虚ろな目、ノソノソと覇気のない動き、自我は無く、ゾンビマスターに操られる存在です。
ゾンビマスター!
そう、現代ゾンビ映画に多い感染系のゾンビと根本的に違うのはここですね。
そしてこのゾンビ達はソンビマスターが命令しない限り人を襲ったりしません。普段は工場で働いています。文句を言わず、24時間ぶっ通しで働いてくれる完全無欠の労働マシーンです。

このゾンビマスターをかの名優ベラ・ルゴシが演じているのですが、素晴らしいインパクトを見る者に与えてくれます。この少し大袈裟かな?と思える演技は好き嫌いが別れるかも知れませんが、私は好きです。

ストーリーは意外な愛憎劇。ゾンビ化されたヒロインをめぐる愛と悲しみのストーリーは涙無しには観れません。人間対ゾンビの大殺戮ショーを期待していた私は意表を突かれ涙腺崩壊。

若干前に出過ぎな気がする音楽が素晴らしい!いや、この塩梅がいいのだろう。クラシカルな弦楽による演奏が各場面を彩ります。

ゾンビの怖さというより、ゾンビ化されることの悲しさが強調されていたかと思います。労働ゾンビはさながら日本社会を支えている社畜サラリーマンのようでもあります。(失礼…)

ベラ・ルゴシの名演、非常に濃いストーリー、何よりゾンビ映画はここから始まった!多分!(笑)
文句なしの名作でした!

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吹雪まんじゅう