「観終わって、重厚感たっぷり。」オール・ザ・キングスメン(1949) talkieさんの映画レビュー(感想・評価)
観終わって、重厚感たっぷり。
<映画のことば>
農民諸君、連中は我々を騙してきた。
今度は、私がやり返す番だ。
私は、選挙を戦い抜く。
農民諸君、頭を上げ、神に祝福された真実を知れ。
農民を救えるのは、農民しかいない。
苦学して、平凡な農民からひとかどの政治家(州知事)にまで「階段」を駆け上がったスターク。
しかし、そのスタークにしても、いったん権力の座に就いてしまうと、他の凡庸な政治家に堕してしまったということでしょうか。
いわゆる逐鹿(ちくろく)という行為は、こんなにも人の人格を変えてしまう、非人間的な行為だというとでもあるのでしょうか。
そう思うと、本当に胸が痛みます。
「権力は腐敗しやすく、絶対的権力は絶対的に腐敗する。偉人は殆ど常に悪人である」とは、イギリスの思想家アクトンの言葉として伝えられていますけれども。
この言葉を映画にすると、本作になるのかも知れません。
「水戸のご隠居」や「大岡越前守忠相の大岡裁き」とかがやたらに大衆ウケして、何シリーズにも渡って、何十年も放送されたりする、日本というこのお国柄ではあるのですけれども。
そろそろ、日本でも、本作のような考え方をする人が多数派を占めても良いと考えているのは、果たして評論子だけでしょうか。
その意味で、本作の題名の真意が「すべての権力者へのために」といった箴言的な意味合いのものだとすれば、それは正鵠を射たものだったとも思います。
そのことを余すところなく赤裸々に、しかし静かに訴えかける本作は、秀作であったと思います。
評論子は。
(追記)
誰にでも弱味はある。
人間は、罪と腐敗に生まれた。
意見が別れて政治的な対立に陥ると、かつての盟友だった判事すら蹴落とそうとする、そのスタークの所業には身の毛も弥(よ)立つ思いもします。
けれども、思想・価値観の集大成ともいうべき「政治」とは、拭い去り難く、そういう側面もある営みなのかも知れません。
世上「人間は政治的な動物」とか「人が三人集まれば、そこに政治が生まれる」とか言われ、人の生活と政治とは切っても切れない縁があることが強調されます。
そして、世の中「何でもあり」だった高度成長期という背景もあってか、かつてわが国の与党系の政党には、ヤクザ・ごろつきの紛(まが)いの者もいて、しかもそれが大臣歴任者であったりもしましたけれども。
たとえば、彼の平生の政治家としての、そのヤクザのような所為も、彼の思想・価値観が露骨に表出したものであり、彼が国会議員としての地位を保っていたということは、彼の思想・価値観に共鳴して投票する選挙民もいたということに他ならないのだろうと思います。
けっきょく政治というものは、抜き差しがたく、そういう性質を内包しているものなのかも知れないとも思います。
それが是なのか非なのかは別論として、「合従連衡」とも形容される「政治」というものの一面として、「あまりあからさまには語れない側面」も持ち合わせていることを如実に描いているという点でも、本作は優れていたのだろうと思います。
(追記)
本作は、評論子が入っている映画サークルの「映画を語る会」で、話題作品として取り上げられたことから、鑑賞することとした一本になります。
しかも、話題提供者がプロの映画評論家とあっては、見逃すことができませぬ。
その期待に違少しもわない、重厚な一本であったことも、言い添えておきたいと思います。