「都市を描く映画の名作」エドワード・ヤンの恋愛時代 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
都市を描く映画の名作
エドワード・ヤン監督の一番の代表作は『クーリンチェ少年殺人事件』だというのが定着している。しかし、キャリア後期には『クーリンチェ』のイメージとは異なる、軽やかな作品を作るようになったのだけど、これはその走りとなった作品だ。この映画は、確か『クーリンチェ』から3年後に発表された作品だと思うが、前作とは全く異なる作風になっていて驚く。個人的には後期の軽やかなタイプの作品のが好きだ。
とにかくこの映画は、台北という街が魅力的に見える。観光的な魅力ではない。きれいな風景がいっぱいでてきたり、遊びに行く場所がたくさん映っているとかそういう意味ではなく、都市とそこに生きる人の息づかいがすごく伝わってきて、「ここで暮らしてみたいな」という気にさせるのだ。軽薄なようで何か切実なようで、人はこの都市で何を求めて生きているのか、都市に生きる生態系みたいなものが、軽やかだけど克明に刻まれている感じがする。都市を描く映画として映画史の中でも特筆すべき一本だと思う。
エドワード・ヤンの近代都市を捉える眼差しはこの後の作品でも存分に発揮され、『カップルズ』に『ヤンヤン 夏の想い出』へと結実する。軽やかだけど人間を見つめる眼差しは鋭い。この肩の力の抜けた余裕に痺れる。
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