「世界を変えた男はGMのリッキー」42 世界を変えた男 マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
世界を変えた男はGMのリッキー
黒人は白人とトイレを共同で使えず、球場のスタンドは入口からすでに有色人種用を白人用が区別される。野球は白人のスポーツで、黒人が一緒になってプレーすることなど考えられない時代だ。
まさか黒人の大統領が生まれるなど誰も考えもしない。あの「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(85)でも、タイムスリップした1955年では黒人が市長になることなどあり得ない話としてギャグにしたほどだ。
そもそもは大航海時代の三角貿易で、労働力として奴隷を確保するためにアフリカから品物と交換で無理やり引き連れてきたのが、黒人がアメリカに住み着いた発端だ。それでいながら、時代が変わり男女はもちろん、肌の色も関係なく人権が主張されるようになると、白人だけが人間であるかのような考えが横行し、今なお人種差別が無くなっていない。
1940年代、黒人もアメリカ国民として当然だと言わんばかりに戦争に駆り立てておきながら、終戦後も白人と黒人の間の垣根は無くならない。
こんな時代にたったひとり、黒人が白人に混じって野球をプレーするということが、どんなに大変だったことか。身の危険を感じるほどの誹謗中傷に耐え、怒りのすべてをプレーにぶつけるジャッキーの姿が痛々しい。けれども“やり返さない勇気”を持ったジャッキーは、ユニホームを着た孤高の紳士となっていく。
ジャッキーの努力は並大抵のものではないが、ドジャースのGMリッキーが偉かった。周囲の偏見や反対を押し切り、旧友を振り切ってでも新しい風を吹き込んだリッキーという人物がいなかったら、現在のメジャーリーグがどうなっていたか想像がつかない。
ハリソン・フォードが、老いても骨のあるリッキーを素晴らしい演技で体現。
チームメイトで男気を見せるピーウィーのルーカス・ブラックや、口汚い敵将チャップマンを意地悪く演じたアラン・テュディックがスタンドの臨場感を盛り上げる。
男たちのプライドと友情を描いた、久しぶりにワーナーらしい男臭い映画だ。
実話だけに、脚色の振り幅がないのが残念だ。