これは映画ではない : 映画評論・批評
2012年9月18日更新
2012年9月22日よりシアター・イメージフォーラムほかにてロードショー
批評精神と熱血のエンタテインメント精神がしたたかに息づいている快作
「こんなの映画じゃない」とスクリーンに向かって苦虫を噛む。そんな情ない観客体験に事欠かない今日この頃、「映画ではない」とわざわざ謳うタイトルの挑発の意志もスリリングなイランの監督ジャファル・パナヒの一作には皮肉にも、否定しても否定しても頭をもたげてきてしまう「映画」が満ち満ちている。あるいはここには「映画とは」との果敢な問いかけと試みの心、それを見世物としてもう一度、自分と映画につきつけるクールな距離、批評精神、そうして何より苦境にあっても楽しみ楽しませるユーモアと熱血のエンタテインメント精神がしたたかに息づいている。
反体制的活動を理由に映画製作、出国、マスコミとの接触を禁じられたパナヒ。2011年3月の一日(日本を襲った津波のTVニュースも映し出される)、友人の記録映画作家モジタバ・ミルタマスクの”共犯”を得て彼は、テヘランの高層マンションの自室で自らを被写体とする。脚本を読むだけなら映画を撮ったことにはならないだろうと知恵をめぐらせ、不自由を自由の糧とする作り手は、軟禁状態にも脱出口をこじ開ける。ついにはイラン旧暦の大晦日のかがり火が闇に映える街頭へと銃口然とカメラを構えて歩み出す。そこに否応なしに浮かぶ演出、演技。それさえぬかりなく素材としてパナヒは虚実の境界というイラン映画お得意の領域を再検証してもみせる。虐げられた作家の抵抗を安易に美談とするような世界の嘘にも十分に気づきながら、行動する映画の力をまっすぐに伝える快作、そのあざとさすれすれの真摯さが、しぶとい強みとして効いている。
(川口敦子)