「きれいはきたない、きたないはきれい。闇と汚れの中を飛ぼう。」エリジウム 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
きれいはきたない、きたないはきれい。闇と汚れの中を飛ぼう。
大好きなエビ親子(第9地区)も出てないし
マット・デーモンの坊主頭、正直微妙っちゃ微妙だし
ちょっと設定のツメ甘いんじゃ?って所もあるし
「第9地区」には無かった説教臭い部分もあるし
宇宙を舞台にしている割には
偉くなりたいっていう野望(長官:ジョディ・フォスター)と
生き延びたいっていう切望(主人公:マット・デイモン)の
個人的な動機が中心で、ちっちゃい話だなとも思ったし(その小ささが長所でもあるけど)
いろいろと不満はあるのだが「第9地区」に引き続き、不覚にも泣いてしまった…
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ブロムカンプ監督は
バーホーベン的な諧謔と、キャメロン的な王道、その両方を持っている。
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この監督は、貧困や暴力溢れるディストピアを
「カワイソウだよねー」などという上から目線では絶対に描かない。
同情も批判も加えず、諧謔的に描く。
言葉よりも映像で描く。
ボロボロの密輸船を、埃舞うスラムを、タトゥーと血にまみれた男たちを、ありったけの力で描く。
「キタナイですけど何か文句でもッ!?」と逆ギレ気味の迫力で描いていく。
その迫力に無理矢理押されて
優雅なエリジウムよりも、地球の方が美しく見えてくる。
そして美しいはずのエリジウムがオゾマシク見えてくる。
「世界の意味を反転させる」
という喧嘩上等な心意気にグっとくるんである。
この心意気の前では、細かい欠点など吹き飛んでしまう。「きれいはきたない、きたないはきれい」そんなマクベスな映画を見せてもらえるだけで、個人的にはもう充分満足である。
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そして登場人物の
ナチュラル・ボーン・下衆のクルーガー(シャルト・コプリー)がイイ。
長官(ジョディ・フォスター)の静かなマッドネスぶりもイイ。
二人とも悪人であるが、それよりも
差別的なシステムと知りつつ涼しい顔でキレイゴト言ってる他のエリジウムの人たちのほうがよっぽど極悪な訳で。
クルーガーがエリジウムの本部みたいな所に爆弾投げ込むシーンで、
行けっ!クルーガー!!エリジウムなんてシステムぶっ潰せ!!と思ってしまった。
ここでも世界は反転している。分かりやすい悪の方がまだマシなんである。
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ブロムカンプ監督は、それだけではなく、ちゃんとベタな結末も用意している。
個人的な動機にスポットを当てるという王道な描写も、衒い無くやってのける。
「個人の良心」なんていう分かりやすいテーマを、今時あんな堂々と描けるのも立派なもんである。
ベタさを発動すると絶対に「ありきたり、単純」っていう批判を浴びる。
そんな批判を恐れない度胸と自信がイイ。それでこそのエンターテインメントじゃないかと思う。
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ブロムカンプ監督は、喧嘩上等なバーホーベン的諧謔を、キャメロン的な王道さで包んでみせた。その両方に迫られて、気付いたら泣いてた。
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追記:
この映画観てからしばらくたって、これって未来の話じゃなくて身近な話だよなあってシミジミ思った。
医療とか介護とか自分の老い先とか身につまされる。エリジウムみたいな豪華な老人ホームをテレビで紹介してたけど、そこに入りたいかどうかは微妙だなあと思ってみたり(っていうか入れないし、きっと)。
そんな辛気くさい感想になってしまって、ごめんブロムカンプと思った。