「しっかりと現実を見据えたニール・ブロムカンプのSFワールド」エリジウム 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
しっかりと現実を見据えたニール・ブロムカンプのSFワールド
単にSF映画と言っても、ジャンルは多岐に渡る。スペースオペラ、ヒーロー物、近未来物、タイムトラベル物…。
でも、それらに共通するのが、見る者を見た事の無い世界へ誘ってくれる楽しみ。それが、SF映画の何よりの醍醐味。
その点、ニール・ブロムカンプは異色だ。
「第9地区」に続く新作SF。
「第9地区」も本作も、何も「アバター」のように未知の惑星に連れて行ってくれる訳ではない。地球が舞台である。
なのに、この監督のSFは斬新。
それはきっと、しっかりと現実を見据えた主観にある。
富裕層は楽園のようなスペースコロニー“エリジウム”に住み、片や貧困層は病気と犯罪が蔓延する荒廃した地球に住む。
貧困層は満足に治療も受けられない。過酷な労働を強いられ、使えなくなったらバッサリ切り捨てられる。
権力を行使し、富裕層の貧困層に対する仕打ちは冷血極まりない。
これは決してSF世界の中だけの事ではない。格差社会に異を唱え、文明社会に警鐘を鳴らす。
我々がよく知る世界を、SFというフィルターを通して、別の角度で見せてくれる。だからこそ、この監督のSFワールドに不思議と魅了されてしまう。
偽りの理想郷に反旗を翻す男の物語。
それを映画として傍観する我々はそれこそ“エリジウム”の住人そのもので、皮肉もたっぷり効いている。
ちょっとお堅く書き過ぎたが、勿論、一SF映画としての醍醐味もバッチリ。
ロボット、武器、メカデザイン、コロニー世界などなど、この監督は本当にSFが好きなんだなぁ…と、つくづく思う。
スペースコロニーや、宇宙と地球に二分した人類なんて、「ガンダム」を彷彿させる。(この映画の設定を初めて知った時、真っ先に「ガンダム」じゃん!…と思った)
クルーガーの武器も日本刀みたいでニヤリ。
そのクルーガーに扮したシャルト・コプリー、堂々と憎まれ役に徹し、マット・デイモンやジョディ・フォスターが霞むほど場をさらう。今回はエイリアン化はしない。顔面は吹っ飛ぶが(笑)
正直、「第9地区」ほどではないが、それでもニール・ブロムカンプのSFワールドを今回もたっぷり堪能。
次回作も期待が高まる。
ところで…「第9地区」の続編はいつ見られるのかなぁ?