さらば復讐の狼たちよ : 映画評論・批評
2012年6月26日更新
2012年7月6日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにてロードショー
中国映画的な香辛料をたっぷり効かせた大娯楽映画
近年の中国映画の大作は、香港映画界のスタッフやスターの才能をとり入れて、国際化している。すなわち、中国映画的なくさみを抜いていて、<香港映画>と<中国映画>の境界はぼやけている。
この映画は、中国の映画会社の名もずらりと並ぶが、筆頭にくるのは香港のエンペラー(英皇)である。ジャッキー・チェンの映画も製作する香港映画界の最大手で、普通だったら香港映画の伝統の味を守った作品を提供する。
だが、この映画はその逆で、非常に中国映画的な匂いが強い。といっても、けなしているわけではない。さすがチアン・ウェン監督だと感心しているのだ。いまや、チャン・イーモウやチェン・カイコーのような巨匠たちが捨て去った中国映画的香辛料を、実力的にはすでに巨匠のチアン・ウェンはたっぷりと効かせている。それは何かというと、政治的状況の風刺といったものであるらしい。
これは外国人にとっては本当に「隠し味」であって、正体がよく分からない。ただ、<第5世代>出現のときにそうだったように、その正体不明の「怪味」は複雑な美味ともなるのだ。詮索せずに味わえばいい。
開巻、山中を数多くの白馬にひかせた鉄道馬車が走るという奇観が登場。ぼくなんかはマカロニ・ウエスタンを重ね合わせるが、中国語でこれを「馬列車」といい、その音は「マルクス・レーニン主義」を連想させる。そしてこれが転覆するのは……という解説を読むと、へえと思うが、そういうことをいちいち知らなくても画面に怪しい味とエネルギーが充満するのは感じとれる。<第5世代>とは違い、これをドンパチの大娯楽映画でやってしまうのがチアン・ウェンの凄さだ。
(宇田川幸洋)