「その技は彼を昇天させたが堕としもした」ラヴレース しんざんさんの映画レビュー(感想・評価)
その技は彼を昇天させたが堕としもした
言うまでもなく、セイフライド好演。思いっきりバカで尻軽で、調子に乗る主人公をとってもキュートに、エロチックに演じている。
あの顔が田舎くさい顔になるのだから、メーキャップもすごいが、彼女の表情の演技がすごい、ということでもあったと思う。
本作は設定からすると、マーク・ウォールバーグ主演、P.T.アンダーソン監督の「ブギーナイツ」のような映画かとおもったが、あんまり映画的な面白さはない。
映画のデキ自体はどうもちぐはぐで、ドキュメンタリー的な描写や進行と、映画的な表現や中盤のドラマ部分の盛り上げ方が互いを邪魔してとっても不細工。
結局セイフライドだけがかんばった、という印象しか残らない。ラストの彼女のエピソードの蛇足感がはなはだしい。
しかしアマンダだけが実は見どころではない。
本作、ヒモのチャックに意外と昇天、じゃなかった、焦点が当てられている。作り手は、案外このチャックというヒモも悲劇の主人公として描いているのではないかと思われる。
そもそも男っていうのはおバカなもので、女の子に技を仕込む、というのは、男冥利に尽きる、っていう恥ずかしいファンタジーな一面がある。
リンダの技は、チャックの教えでは、「肉体と精神のコントロール」でなしえた、崇高な神業である。
チャックがリンダに固執するのは、リンダのテクが「自分が教えたからだ」というかわいそうなプライドを持ち続けたところにある。
そのチャックの悲劇は、その神業を「ディープ・スロート」1本でポルノ映画を切り上げ、アダルトグッズに展開しようとした、本人の趣味?を優先し、商売上手な映画プロデューサーを無視したことにある。結果彼の行く道は限られ、リンダにとっても、チャックにとっても最悪の方向に進むことになる。
チャックの行動がいまいち情けなくかつ滑稽に見えないのは、「ディープ・スロート」がいかにヒットし、いかに社会現象になったかを、一応描いてはいるにはいるのだが、そう見えないぐらい描き方のスケールがちっさいからだ。
このマイナスもちょっと大きいな。
追記
シャロン・ストーン演じる母親の第一声がリンダに向かって「まあ、なんて恰好してるの」というおもろいセリフ。ダッチワイフに八つ当たりをするチャック。
映画のデキは、全然ダメだが、笑いどころは多い。