「ラストのたたみ掛けるようなドンデン返しには、思わず感動。何気ないワンシーンがいいんです。」スマイル、アゲイン 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
ラストのたたみ掛けるようなドンデン返しには、思わず感動。何気ないワンシーンがいいんです。
だめパパで離散した家族が絆を取り戻すという本作の設定は、ヒューマンドラマの定番中の定番。その王道のあまりにど真ん中をアプローチしているため、全く新鮮味を感じずに試写会へ出向きました。確かに途中までは、凡庸。こんな落ちぶれたバトラーを見たことがないほどのだめっプリを見せ付けてくれます。本作のいいところは、なかなか『スマイル、アゲイン』となる手の内を見せないところなんです。タイトルからして、ほぼ結末は見えています。だからこそ、最後の最後まで一波乱も、二波乱もアクシデントが起こってしまい、これはもうハッピーエンドで終わらないのではないかとさえ思うくらいでした。だからラストのたたみ掛けるようなドンデン返しには、思わず感動。決して韓国映画みたいにお涙頂戴と涙腺攻撃にでるのでなく、主人公の何気ない所作で、ぐらりと元妻のこころが変わり、それが積み重なって、観客の涙腺を徐々に緩くしていくような、じ~わっとくる作品だったのです。
冒頭に出てくるジョージの現役時代の活躍シーンを見れば、家賃さえまともに払えないほど経済的に追い詰められた今の暮らしぶりが信じられないくらい。でもきっとプライドが災いしてそうなったのでしょう。そんなジョージの楽しみは、離婚して元妻のステイシーが引き取った息子ルイスと会うこと。でもまだ別れる前は、自分の都合ばかり優先して、自分の息子の顔すらろくに見ないという生活を送っていたのいたのです。だから、ルイスと会っても微妙に流れる隙間を埋められずに悩んでいたのです。『Dear フランキー』(2005)では、素敵な偽パパぶりを見せ付けてくれたバトラーでしたが、本作のジョージとはえらい違いです。
見るに見かねたステイシーは、ルイスをほったらかした罪滅ぼしにと、ルイスの所属する少年サッカーチームのコーチを強引に勧めます。ジョージのコーチは、ルイスばかりか他のメンバーの少年たちのにも大好評。その親たちとの人脈がジョージの人生も大きく変えていくことになります。
愉快なのは、親たちの親バカぶり。賄賂まで使って、自分の子供をいいポジションに着かそうとするバカさ加減には笑ってしまいました。まぁ、少年チームのコーチになるといろいろ大変なんですね。もっと大変なのは、イケメンで独身となったジョージを、チームの若いママさんたちが放っておかなかったことです。しつこくデートに誘うくらいならまだしも、勝手に自宅に押しかけ、ベッドの中で待ち伏せる猛者も(^^ゞ
そんな据え膳を喰らってしまうジョージでしたが、ステイシーへの未練も募るばかりでした。それは、コーチを通じてルイスとの親子の絆が深まったからでした。ルイスともっと長くいたいと思うほどに、家族をほったらかしにしてきた自分の身勝手さが悔やまれて仕方なかったのです。けれどもそんな思いとは裏腹に、ステイシーは同棲していた自分の友人と再婚を決めてしまいます。強がって、祝福するものの動揺が隠せないジョージ。式が近づいたある日、ウェディングドレスの衣装合せをしていたステイシーを捕まえて、思いの丈を伝えます。けれども、そのあとチームの母親の不倫疑惑が浮上して、せっかくステイシーといいムードになりかけてきたのに、全ておじゃんにになってしまうのですね。 ジョージは、新しい仕事がやっと決まった結果、家族の住む街から遠くへ転居しなくてはいけなくなります。ルイスと別れる時、固く抱きしめる姿が、切なかったです。
どうです?なかなか『スマイル、アゲイン』とならないでしょう(^^ゞ
本作を見て感じたことは、自分中心で他人への関心を失っていたら、大切な家族の姿さえ見えなくなってしまうことです。ジョージも家族と毎日暮らしていたとき、自分の妻や息子がどんな淋しい思いで自分の帰りを待っていたかなんて、思いもよらなかったのでしょう。妻や息子とキチンと向き合うことの大切さが、ヒシヒシ伝わってきます。
それと自分は間違っていなくても、誤解させてしまう責任はあるんだということですね。親子の絆が深まっていたいたはずなのに、いきなりハパは嫌いと言われたら、どんなお父さんだって驚きますね。理由が分かって、子供のほうが誤解していた場合は、起こったりしませんか。でも、誤解させるような言動をしていたなら、素直に反省しないと、本作のように簡単に溝は埋まらなくなります。まぁ、子供は親の所作をよ~く見ていて、据え膳を喰らってしまったチームの母親と道ばたでキスでもしていたら、「何だハパは!」とへそを曲げられるので、悪いことはできません。
ジョージも、家族のこころと向き合っていなかったことを心から悔い改めたとき、きっぱりと執拗な据え膳を断るのです。そんな父親の決意が伝わったのか、いつの間にかルイスとの仲が修復していくのです。
子は鎹(かすがい)と申します。ステイシーの心を揺さぶったのは、ジョージの反省の弁ではなく、ジョージとルイスが仲良くサッカーのパス回しをしている姿だったのです。ただ普通の親子のようにボールで遊んでいる姿が、絆を強く感じさせてくれて、感動的なんですね。
だから、いま夫婦不仲になっていらっしゃる人がいるなら、ぜひおすすめしたい作品です。そして、ジョージが劇中にやったように二度目のプロポーズをしてみてください。若い頃のプロポーズなんて空手形みたいなものじゃあありませんか。酸いも甘いも経験した今だからこそ、本気になって人生を賭けてプロポーズできるようになるわけです。
ただ本作は、男女でガラリと見方が分かれるようです。ジョージの再プロポーズが男の身勝手なのかどうか。ステイシーはさっさと再婚してしまう方が幸せなのか。カップルで見に行けば、激論となるのは必至!ケンカにならないでね(^^ゞ