「テーマを欲張ったため、冤罪の謎解きにしろ、黒人差別にしろ、はたまた注目のキッドマンのバードコアなシーンにしろ、どれもが悪くはないが中途半端」ペーパーボーイ 真夏の引力 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
テーマを欲張ったため、冤罪の謎解きにしろ、黒人差別にしろ、はたまた注目のキッドマンのバードコアなシーンにしろ、どれもが悪くはないが中途半端
「神様も汗ばむほど暑かった」。
こんなセリフで始まる本作。舞台は、1969年の米南部フロリダで、うだるような蒸し暑い夏でした。じわりと吹き出る汗と湿地帯のうだるような暑さに包まれながら、白人家庭で働く黒人女性の視線を時おり交えて語られる人間模様は、ねっとり濃密に編み上げられて息苦しい程。でも作中にたちこめる不快さの正体は高い気温や湿気ではなく、人間社会に潜む差別や格差の根深さにあると感じられました。
殺人事件を軸にしたミステリーの体裁をとってはいるけど、人や町が隠し持っている罪深き業というものをえぐり出いる作品です。主要な登場人物は欲望に満ちていて、さまざまな顔、性のにおい、出世欲や愛欲や支配欲が渦巻く姿が描かれます。
そして『プレシャス』で高い評価を得た黒人監督だけに、人種や貧富による差別など、そこには、アメリカン・ドリームの神話が隠蔽する米国の本当の空気、マイノリティーの側から見た社会の姿を浮き彫りにしていこうとしている意図が覗えます。
ただテーマを欲張ったため、冤罪の謎解きにしろ、黒人差別にしろ、はたまた注目のキッドマンのバードコアなシーンにしろ、どれもが悪くはないが中途半端で散漫になりがちなのが残念なところです。特に、ザック・エフロンとキッドマンの絡むところは、何故か行為の前半で場面カットされてしまうんです(^^ゞニコールが、白ブリーフ一枚で転げまわるエフロンの目の前でおしっこをするシーンは、さすがに衝撃的でしたが(^^ゞ
とある黒人女性の回想という体裁で語られる物語は、人種差別主義の白人郡保安官が殺されたところから始まります。その結果、沼地に住む貧しい白人のヒラリーが逮捕され、死刑が確定するのです。
一方、水泳選手の夢破れ、父親が社主の田舎町の新聞社で働くジャックは、帰郷した大手新聞の記者をしている兄の運転手となって取材を手伝うことに。兄は前途の郡保安官殺しが冤罪だと直感して、黒人の同僚ともに再調査に来たのでした。
さらに、この兄弟に、ヒラリーに同情して文通、婚約までした、ぶっ飛び気味の金髪美女シャーロットが行動を共にするようになります。
ジャックは、たちまち彼女のワイルドな魅力に惹かれて激しい恋心を抱いてしまいます。ウブな青年が募らせる年上の女性への想いを、当時流行したソウル・ミュージックで彩ったりなど、この映画にも甘美な場面はありました。
しかし、常にダークな憂鬱が本編を包み、甘っちょろい甘美さを飲み込んでいきます。散漫になりがちな中にも、ドラマの核心部分には、猟奇的な殺人事件の謎はキチンと描かれていて、真相が明らかになるラストでは、犯人によって重要人物が殺されてしまう衝撃的なヤマ場を迎えるのです。
一連の出来事すべてが、ジャックには心の傷として刻み付けられます。その痛さこそ、本作の本当のモチーフなのかもしれません。
何をやっても思うようにいかないシャーロットの人生に哀れを覚え、そんな彼女に恋をしたジャックもまた哀れに思えてなりませんでした。とはいえ、ジャックにはいい人生勉強になったことでしょう(^^ゞ
そんなひと夏の経験が重なり合い交じり合って、青春の光と影の陰影が強烈な物語となったのです。