劇場公開日 2013年6月21日

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「憧れと憎しみで子は育つ」アフター・アース 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0憧れと憎しみで子は育つ

2013年6月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

興奮

幸せ

ウィル&ジェイデン・スミス親子共演、M・ナイト・シャマラン監督作。
人間にとって有害な惑星となった1000年後の地球を舞台に、
葛藤を抱えた父子が生き残りをかけて冒険に挑むSF映画。

がっかりする前に言っておいた方が良いだろうか。
本作にドンデン返しは無い。
『ハプニング』の頃から、シャマラン監督は
どんでん返しに対するこだわりをスッパリ捨てたんだろう。
個人的には物語のどんでん返しよりも、特異な状況におかれた
人間達の絆を描く方としてシャマラン監督は好き。
『エアベンダー』で少々茶を濁したが、今回は
その人間ドラマを重視するシャマラン監督が戻ってきた感がある。

とはいえ面白いのはやはり過酷化した地球の描写。
人の手を離れて密林と化した世界は美しく、そして危険だらけ。
かき分けてもかき分けても続く鬱蒼とした森。
有毒な空気の中ではまともに息も吸えない。
猿や鳥はおろか、小さな虫のような生き物でも油断できない。
人間がいなくなっても地球の生物はこんな風に
しぶとくずぶとく生き延びていくんだろうか。

しかしながら、進化した地球の生物の姿はもう少し凝ったデザインが
見たかったかな。リアルに描いたらきっとあんな感じなんだろうが、
そこはもっとホラを吹いて良い所だと思う。
また、物語の肝である父子の葛藤を描く最初の導入はもう少し長く、
というか詳しく見せてもらいたかった。
『異星人との攻防』という設定もよけいな風呂敷を広げただけかなあ。
重要なのは人の恐怖を嗅ぎ取るという生物“アーサ”の方だし、
中途半端な印象を与えるだけだったような気がする。
その“アーサ”は殻の剥けた甲虫みたいな気色悪いデザインで
個人的には好きだけど。

と、不満をつらつら書いておきながら、大満足の4.0判定。
なぜならここで描かれる父子の絆に、一筋縄ではいかないものを感じたから。

ジェイデン演じるキタイの葛藤と成長が物語の中心と思いきや、
この映画は英雄と称される父レイジの成長を描いた物語でもあった。
レイジは息子を思うが故に反発され、そして自分に背いた息子が
自分自身を越えていく瞬間を目の当たりにする。
それは父親として喜びばかりの感情ではなかったろう。

どんなに愛情深い父親もいつかは、息子を恐怖に満ちた世界へと、
情け容赦の無い危険な世界へと送り出さねばならない。
子どもを危険な目に遭わせたくないと心底願ったところで、
いつまでも子どもを護る事など出来ない。
モニタ越しに息子の無事を願うしかない日は必ず来る。

生きる術を教え込まなければならない。
自分の経験を語り、成功の秘訣を知らさねばならない。
一方で、父は図らずも己の失敗を、欠点を、息子に晒している。
それ故に息子の憎しみを買う。
それさえもきっと必要な事なのだ。
息子が自分と同じ過ちを犯さず強く生きるためには。
息子を己以上の存在にする為には。

鳥について。
あの鳥はどうして最後にあんな行動を取ったのだろう。
ネタバレにならないよう詳しくは書かないが、
親が子を想う気持ちはどんなに過酷な世界でも変わらないのかもしれない。
親の屍の下から這い上がるという、あのイメージ。

これはひたすらきれいで後味の良い親子愛を描いたSFドラマではないと思う。
過酷化した地球でのサバイバルというSF設定を軸に、
子どもの、そして、父親としての通過儀礼を描く。
この映画の主眼はそこだったのだろうと考えている。

設定は面白いのにSFとしての個性に欠けるという点はあるが、
父子のドラマとして心に残るものがある。僕は好きです、これ。

〈2013.06.22鑑賞〉

浮遊きびなご