劇場公開日 2013年2月8日

ムーンライズ・キングダム : 映画評論・批評

2013年1月29日更新

2013年2月8日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー

小さな人生のささやかな練習も世界を変えることがある

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小さな箱庭的な風景が広がる。人形劇なんじゃないかとさえ思えるジオラマ感。小さな島でのボーイスカウトのキャンプという設定や、60年代という時代設定に合わせた主人公の少女の妙に大人っぽいファッションが、そんなことを思わせるのかもしれない。これから彼らに訪れるはずの過酷で残酷な現実を疑似体験する、そんな装置としてボーイスカウトがありキャンプがあり、そしてこの映画がある。

だからそこでは恋も冒険も家族との葛藤も、すべて本番に向けての人生の練習である。彼らがそこで体験することは、近い将来現実に彼らを襲うはずの未知の出来事の予感とともにあるのだ。未来への漠然とした期待と不安が作り上げる彼らのジオラマ。しかしこのような「練習」だって現実のひとつじゃないのかと、この映画は突如高らかに宣言するのだ。

豪雨、雷鳴、不意のキスなど、「練習」にしてはあまりに強烈な現実が彼らを襲う。ジオラマのすべてが台無しになる。台無しになって、彼らが予感していた過酷な現実が顔を出すのではなく、台無しになることそのものが現実なのだと、島を襲った大洪水が告げる。小さな人生のささやかな練習場だった島は、風景を一変させる。誰からも顧みられもしない小さな個人の行動が、世界の終わりとも言える大事件へと一気になだれ込んで行くのだ。この加速度。映画を観ることは世界を変えることだと、監督は本気で思っているに違いない。

樋口泰人

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