マリー・アントワネットに別れをつげて : 映画評論・批評
2012年12月4日更新
2012年12月15日よりTOHOシネマズシャンテ、Bunkamuraル・シネマほかにてロードショー
エンドマークが出てからさらに面白くなる正統派コスチュームプレイ
史実に絶妙なさじ加減のフィクションを交えることで、刺激的なドラマが生まれた。実際は年配の女性だったというマリー・アントワネットの朗読係を王妃に心酔する若い娘シドニーに置き換えた物語は、美しい女性たちの一方通行の想いを描く少女漫画さながらの世界。けれども、そこはフランス映画、御年65歳のブノワ・ジャコーが監督である。ドレスに現代的なアレンジを加えながらも、ベルサイユ宮殿で撮影された作品は、もちろん砂糖菓子のようなガーリー・ムービーではなく、正統派コスチュームプレイ。本物志向の重厚感がリアリティを与えて、歴史の裏側を覗き見しているような気分を味わわせてくれるのだ。
しかも、ジャコーはアンニュイな空気が持ち味。シドニーの王妃への想いはもちろん、取り巻きのポリニャック夫人に恋い焦がれる王妃の苦しさもシドニーの視線に託し、革命の嵐が迫るベルサイユの混乱にさえ、微熱に浮かされているような物憂げな空気を充満させる。そんなベルサイユ宮殿での3日間に、ダイアン・クルーガーや監督お気に入りのビルジニー・ルドワイヤンら本物の美女たちが織りなす愛と裏切りのドラマは、視覚を楽しませてくれるという意味でも十分に魅力的。
けれども、この作品の醍醐味は、物語が一気にサスペンスと化す終盤にこそある。いくら王妃に目をかけられても所詮使用人でしかないという事実をシドニーが突きつけられた瞬間から、エンドマークまでの恐ろしいほどの緊張感。そして、エンドマークの先、シドニーの身に何が待っていたのかに思いをめぐらせずにいられない深い余韻。それまで普通に面白かった物語が、エンドマークが出てからさらに面白くなる。朗読係の愛と絶望の底深さに、身震いするはず。
(杉谷伸子)