チキンとプラム あるバイオリン弾き、最後の夢のレビュー・感想・評価
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異国情緒ある独特なフランス映画
どこに感動要素があるのか分からなかった。人生賛歌という感じもしなかった。
楽器を失ったことで死を選び、ベッドで死ぬまでの8日間を描いた話。何か行動を起こすわけでもなく人生を振り返る。
フランス映画っぽさとテヘランという異国情緒とが不思議な雰囲気を醸し出している。
幼い頃の兄弟2人の学校での容赦ない扱いの差だったり、子供2人のその後の姿だったり、死を司るアズラエルの話であったり、独特のドライな雰囲気があった。
いくら愛していたといってもバイオリンを壊し、たかが楽器と言った妻の行動は許せないなと思った。
素晴らしい映画
フランス映画はあまり得意ではないけれどタイトルに惹かれて何となくみました。我が儘なバイオリン弾きが家族の甲斐性もなく破壊的な生き方をしているなぁと思って観ていました。
死を覚悟してからも、真剣なのに滑稽でたまらなく愛しい主人公。寓話的なお話に逸れながら、話が逸脱することなく、主人公の世界観を超越して活かしている作品の見所にただただ感心するばかり。
最終的に美しい彼女との儚い恋の物語を知り、芸術家としての命は、その恋と共に合ったのだと知って切なくなりました。
奥さんも可哀相。子ども、弟も可哀相。誰一人悪い人はいない。主人公自身も愛されていたはずなのに、自分の願いは叶わなかった、というドラマティックな悲恋のストーリー。
チキンとプラム煮の甘酸っぱい味が心に広がるような感覚。それぞれの存在感と世界観と物語のシュールさ、見事に融合。心に残る作品となりました。
”リアル”なファンタジー
監督のマルジャン・サトラピ自身による同名グラフィック・ノベルの実写映画化である。原作がコミックなので、全体的にファンタジックな作りになっている。サトラピがイランに帰国せずフランスに在住しているため、町並みも全てセットで製作された物である。それが逆にストーリーと相まって、見事なほどに調和している。
出演陣も素晴らしい。主演のマチュー・アマルリックは妙にぎょろっとした目で人を見つめ、ナセル・アリの失われた心をそのまま表現している。回想シーンと今現在の様子は見た目がほとんど変わらないのに、彼の目を見るだけでその2つが全く違うことが分かるのだ。
そのナセル・アリは物語のかなり序盤で死ぬ。その死ぬまでの8日間を描いている。はじめは自殺しようとして、いくつか方法を考えるのだがこのシーンが最高にシュールで笑える。そこから1〜3日目ぐらいまでは人の死生観を皮肉ったような描き方をする。極めつけは3日目の時。結局いい死に方が思いつかず、彼はベッドでじっと死を待つことにするのだが、3日目にもなると暇でしょうがなくなるのだ。なんとも滑稽だが、それと同時に妙にぞっとする。このバランスがとにかく絶妙なのだ(6日目はそのピークだろう)。
しかし、ナセル・アリの妻ファランギースのバックグラウンドが明かされると物語のトーンが変わる。彼女は普段の態度と違い、ナセル・アリを愛していた。そしてナセル・アリの愛を欲していた。なぜ愛されないのか理由も分からず、夫は空虚な目をするだけ。それでも彼女は彼を愛し続けた。初めは(その他の登場人物が言うように)ただのムカつく女だと思っていたのに、こんなエピソードを知ってしまったら、感動せざる負えない。この時点でやっとこの物語が「愛と死」の話だと判明するのだ。他に「愛と死」にまつわるエピソードで胸を打つのがナセル・アリとその母親の話。詳しくは言わないが、映画の中でも最も繊細で愛に満ちあふれている。
そして映画はナセル・アリの引き裂かれた恋の話へと向かっていく。バイオリンがいったい彼の何を象徴していたのか、その意味が分かったとき間違いなく涙するだろう。惜しむべきは一つ一つのエピソードが丁寧なせいで、映画全体が少々散漫であること。それでも徐々に一つのストーリーへと収束していく様は見事としか言いようが無い。
この映画の感動を文面で伝えるには限界がある。あなたの目で直接見てほしい。
(2012年12月12日鑑賞)
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