劇場公開日 2012年6月23日

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それでも、愛してる : 映画評論・批評

2012年6月12日更新

2012年6月23日よりシネスイッチ銀座、新宿武蔵野館ほかにてロードショー

生きる情熱を取り戻すには、ありのままの自分を受け入れること

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主人公のウォルター(メル・ギブソン)は重いうつ病にかかっいるが、これはありのままの自分を受け入れることの難しさを語るための、道具立てだと解釈したほうが良さそうだ。だからカウンセリングを受けても薬を飲んでも病状は良くならない。彼がうつ状態を抜け出すために必要なのは、正面から自分と向き合うことだからだ。

それを促す存在としてビーバーのパペットを登場させたアイデアがユニークだ。パペットに左手を突っ込んだとたん、ウォルターの中にもう一人の自分が生まれ、ビーバーの口を通して本音が堰(せき)を切ってあふれ出る。例えばアニメキャラの声色で独り言を言ったりするのは私たちの日常でもよくあること。最初はそんな遊びのまねごとで、ランニングもシャワーも歯磨きもビーバーと一緒のウォルターが笑えるのだが、ビーバーへの依存度が上がり、人格が分裂していく彼に、次第に不吉な予感がクビをもたげてくる。ビーバーに成りきって人生の真髄を語るウォルターにマスコミが殺到。その過熱ぶりが、逆に足元に待ちかまえる落とし穴を感じさせるなど、周囲の反響の温度差を絶妙に対比させるジョディ・フォスターの演出が的確だ。同じ人形のはずなのに、ビーバーの顔がだんだん怖く見えてくるのもいい。

生きる情熱を取り戻すには、ありのままの自分を受け入れること。そのテーマ自体は珍しくも新しくもないが、それを実行する勇気を分けてくれる人は、きっとあなたのそばにいると言い添えているのが、この作品の優しさだ。ひとつ難があるとすれば、妻のメレディス(ジョディ・フォスター)の描写が浅いこと。私は監督だからスポットライトは全てメルにという配慮か。やはりこの二人は仲がいい。

森山京子

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