「母さん、さようなら。」みなさん、さようなら ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
母さん、さようなら。
12歳から30歳までを違和感なく演じられるなんてさすが濱田岳!
いたかも?こういう同級生~という感覚にさせる凄い顔技である。
てっきりコメディかと踏み込めばかなりシリアスな問題に出くわし、
なぜ彼が団地から出られなくなったのかが中盤以降で明かされる。
「団地」という昭和の象徴を、その盛衰と彼の成長を照らし合わせて
描いていくのだが、所々でほのぼのと青春を謳歌している彼を
見ていると、だんだん応援したくなってくるから不思議である。
現に同級生やご近所さんも皆で彼を見守ってあげてきた。
最たるは母親になるが、このお母さんが本当に凄いのである。
私も幼い頃、その「団地」で育った。
ちょうどベビーブームの頃で団地も学校もかなりの子供数で溢れ
かえっており、どの学校も校舎増設が間に合わないほどだった。
確かにあの頃は団地で暮らすことがハッピーだったかもしれない。
団地内には何でも揃っていた。友達も皆、その中で暮らしていた。
何十年か後に老人で溢れかえるなどまだ当時は想像できなかった。
しかし着々と親世代は一戸建てを買い求めて団地を出ていった。
そんな当時を懐かしく想い出しながら、主人公・悟を眺めた。
団地内で就職、彼女ができて、自分の思い描いた未来が実現して
いく悟だが、とり憑かれたように団地内をパトロールし、頑なに
一歩も団地から出ない悟に対して周囲が困惑し始めるのを機に、
彼の大好きな団地からは時代と共にどんどん住人が減っていく。
彼はこのままずっと団地に住み続けるつもりなのだろうか…。
悟が抱えてきたトラウマの正体(もちろん怖い)と、母親の日記。
初めて団地から足を踏み出したのは、母親の危篤の知らせだった。
可愛い息子がそんなトラウマを抱えてから、このお母さんは
どれだけの辛い思いで長年この子を見守ってきたんだろう。
心配している素振りも見せず、大丈夫。大丈夫。と気丈に振舞う
この母親がいてくれたから、悟はここまでやってこれたのである。
そのことが分かる日記の場面では号泣必至。誰だって自分の子供
には幸せになってほしい。できれば普通の生活をさせてやりたい。
そんな想いと裏腹にそうなってしまった息子の心の傷に、寄り添う
母親のなんて強い意志と言動だろうと思った。世間が何を言おうと
自分だけは息子の味方でいてやるんだ、これが母親の想いの全て。
普段口煩く言うけれど、母親は皆そう思っているんだよ、本当は。
なんて、自分を援護・擁護しつつ、悟の未来に幸あれよ~と祈った。
(商店街の盛衰もリアルだ。あのケーキ一日何個売れてたのかなぁ…)