「妹尾家はまだ幸せ」少年H マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
妹尾家はまだ幸せ
戦争へまっしぐらの暗雲立ちこめるなか、4人家族が体験する事柄を、とくに長男・肇の目を通して描かれる。
夫婦と男女一人ずつの子供の4人家族。今ならごく普通の家族だが、当時はかなり厳しい目に晒されたに違いない。
西洋文化への傾倒は反国精神の顕れと見られた時代に、仕事が洋服の仕立屋で顧客の多くが外国人、しかも家族でキリスト教会に通い、とくに妻・敏子は信仰が強い。この辺りは作品でも取り上げられるが、夫の盛夫が身体的な問題で徴兵を免れている点は多く語られていない。
これが本当の話なら、主を兵隊に取られない家族がいい気なもんだと陰口を叩かれたに違いない。
そうしてみると、戦争のなか生き抜いた家族、とくに正義感が強い少年・肇と可愛らしい妹・好子には好感が持てるものの、やけに先見の目がありワケ知り顔の父親像は違和感があり、全体が都合のいい作り話に見えてくる。
男手を取られず、戦時中も家族が揃っていた(一時、好子が疎開するが)妹尾家は、他人から見たら幸せだ。
私が子供の頃、親から聞いた話は当然のごとく父と母では内容が違う。父は日本を遥か遠く離れた戦地で、母は父親が軍人で残された母親とともに幼い妹や弟たちの面倒を見ながら戦争を乗り切った。周りの大人から聞いた話と比べても、この作品の内容はすごくぬるく感じる。
戦時中の日本人の殆どが、戦況の事実を知らされず、負けないと信じて一点だけを見て生きてきたのが、終戦を迎えた途端、憑き物が消えたように人々が生き方を変えていくラストは興味深い。
「風立ちぬ」では喫煙シーンの多さが問題になっているようだが、本作のように喫煙シーンがないのも不自然だ。昭和40年代ごろまでは、大人の男はタバコを吸うものであり、誰も体に悪いものだなんて思っていなかった。