「息子を捜す旅」星の旅人たち キューブさんの映画レビュー(感想・評価)
息子を捜す旅
以前この映画と同じようにサンディアゴ・デ・コンポーラを巡る「サン・ジャックへの道」を鑑賞した。あちらはフランス映画だったが、こちらはアメリカとスペインによる合作だ。お国柄の違いなども楽しむと良いかもしれない。
主演のマーティン・シーンと監督のエミリオ・エステベスは実の親子だ。だからこそ、この映画には本当の親子でしか表すことのできない深い愛情がある。エステベスが父親をイメージして作り上げたというトムはまさにマーティン・シーンそのものだ。いかにも堅物で、ほとんど笑わない。息子の遺灰を聖地に持って行くことだけが彼の頭の中にある。しかしそんな彼を邪魔するかのように次から次へと楽しい旅仲間が加わってくる。オランダ人のヨストは大食漢で痩せるために巡礼をしている。カナダ人のサラは美人だが近寄りがたい人物。巡礼の目的は禁煙(らしい)。アイルランド人のジャックは作家だがスランプに陥っている。もちろん、ネタ探しのために巡礼に参加した。一人一人のキャラクターがとても生き生きとしていて、トムがかすんでしまうほどだ。
だがこの映画の主役はあくまでもトムだ。トムとその息子のダニエルの関係があまり深く描かれないから、いまいち感動しきれない。そこをもっと上手く描ければ映画全体にもグッと締まりが出て良くなっていただろう。
しかし全体としてこの映画は良くできている。巡礼の旅は「歩く」シーンしかないのに、素晴らしいキャラクターによって飽きが来ることはない。スペインの素晴らしい景色も相まって、見ているだけで自分も旅をしている気分になる。そしてなにより、トムのダニエルへの思い。行く先々ですこしずつダニエルの遺灰をまくトムの姿は涙を誘う。だからこそ旅の終盤になると、彼らが名残惜しくなると同時に旅の感動も伝わってくる。
息子エミリオから父親マーティン、いやラモーン・エステベスへの最高のプレゼントだろう。
(2012年7月15日鑑賞)