「横道入って回り道。」横道世之介 ハチコさんの映画レビュー(感想・評価)
横道入って回り道。
まさかこの作品が160分もの長丁場だとは知らなくて、
劇場のスケジュール表を見て驚いた。
えぇ、こんな作品にこんな長さってどういう…?と焦り、
恐る恐る観てみたところ、これがちっとも長くない。
つまり最後まで、ぜんぜん、飽きなかったのである。
しかしながら油断したせいか、ちょうど午前の回に一番
後ろの列を陣取った私を含め3人の鑑賞客は、揃いも
揃ってお腹がグーグー鳴ってしまった^^; あぁ恥ずかし~。
原作の面白さなのか、脚本の妙なのか、
監督の力量はもちろん、あとは世之介の魅力だったのか?
ゆらりゆらりと語られる一見おっとりした懐かしい想い出が
16年を経た現在の友人たちによって、所々で切り替わる。
自分が学生だった頃に、そういえば、そんな奴がいたっけ。
一時仲良く話したことが、一緒に遊んだことが、あったっけ。
なんて、今では疎遠になった友人を想い出す時のあの笑顔。
だけどそんな風に想い出した時、人を笑顔にさせるような
そんな人物でありたいと、なんだか思ってみたくなるのだ。
結論から言ってしまうと、今の現代に横道世之介の姿はない。
冒頭から語られる'80年代の想い出があまりに普通で温かい
せいか、ふと、あれ?どうしたんだろう。なんて思ってしまう。
ただその事実が知らされる後半になっても、世之介の姿は、
まったく変わることがない。ごくごく普通の大学生のまんまだ。
彼が彼らしくそこにいてくれることで、
その'80年代にいた私たちも、今の現代を生きている私たちも、
スクリーンの中の同級生や友人と戯れながら、過去を体験する。
もろに'80年代が青春だった自分からすると、ややもすれば、
ちょっと微妙な描き方がされているのだけれど。
パソコンもケータイもなかったあの頃、公衆電話で10円玉を
積み上げて、実家に電話する主人公が愛おしい。
長崎の港町出身ということが、やけに親切で何でも引き受けて
しまうという、お人好しの主人公をよく物語っている。
都内の専門学校に通っていた頃、地方から上京して寮に入った
同級生たちが、やたらと元気にはしゃいでいたのを思い出す。
まぁ学ぶ場所がどこであろうと、われら青春!だったのだ(古)
世之介が味わう暮らしや友人たちとの学生ライフに、取立てて
何が起こるというわけではない。
彼が片思いする年上の女性や、妙に好かれる富豪のお嬢さまなど、
面白キャラは点在するが、その一つ一つを丁寧に描いているだけ。
今作が映画として成立するのは、そういう何気ない日常の大切さ、
素朴な人生のひとコマを積重ねると物語になる、ということである。
漫然と生きたとか、無駄な時間を過ごしたとか、過去を振り返り
思うことは多々あれども、これが案外あとで役にたつことに驚く。
この世之介くんのエピソードだけで(しかも1年間の)
こんな映画が作れちゃうんだから!人生捨てたもんじゃないのだ。
今作の吉高由里子、これがまた最高に似合っている。
この子がお嬢さま?なんて訝しく思うところだが、ゼンゼン。
むしろ彼女がいてくれて、本当に良かった。世之介も、私たちも。
現在の彼女がラストで出てくるが、おそらく今やっている仕事を
含め、彼女の半生を、たった一人の男が、彩っていた。その一瞬、
一瞬の眼差しは涙が出るほど愛おしく、幸せだと思わせてくれる。
周囲が忘れてしまっても、彼女は一生忘れない(られない)のだ。
(最近私もあの頃が懐かしく想い出されて仕方ない…歳ですかね^^;)