「ワイヤーアクションはいいものの、内容はともかく邦題が罪作りだと思います。」捜査官X 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
ワイヤーアクションはいいものの、内容はともかく邦題が罪作りだと思います。
金城武とドニー・イェンの二大スターに気を遣い過ぎたのか、どっちがメインの話なのか分かりにくくしています。特に邦題が罪作り。「捜査官X」なんてどこかの作品のモノマネコピーをつけてしまうと、刑事が主体のドラマとしてみてしまいます。確かに、職人ジンシーに目をつけた捜査官シュウは、独自の直感で執拗にジンシーの過去を暴き立てます。彼が犯罪者ならまだしも、村を無法者から守った功労者を何の根拠もなく疑い始めるのですから違和感を感じました。ただそこまでは確かにシュウの推理の元に進行していたのです。
ところがジンシーの正体が、漢民族に滅ぼされた西夏族の族長の末裔であり、その復讐しとして漢民族の根絶やしを誓った暗殺集団“七十二地刹”のナンバー2という過去が浮き彫りになるにつけて、ジンシーが中心のドラマに変わっていくのです。
原題はからいうとジンシーが主演のドラマのようなんですね。子供まで惨殺する“七十二地刹”の殺戮ぶりに疑問を感じたジンシーが組織を離れて、雲南省の小さな村で別人として愛する妻と子らに囲まれて慎ましやかに暮らしているところに、組織が奪還のため介入。妻子を人質に、ジンシーに家族の命を取るのか、組織の裏切りを続けるのか究極の選択を求めるのです。その時のジンシーの決断。そしてジンシー夫妻の絆の深さには感動しました。これには、なかなかシュウの出る幕はありません。
ただもちろんジンシー一家の救出にはシュウも大活躍します。けれども、村民まで犠牲者を出して、村に組織を呼び込むきっかけを作ったのは、村の功労者となったジンシーにシュウが余計な疑いを持ったことが発端なのです。
シュウは悪法も法という杓子定規な捜査官。自分の義理の父親まで、麻薬取引に関わったとして逮捕。おかげで夫婦仲は破綻し、離婚するはめに至っていました。そういう手痛い前歴があるのに、懲りないシュウは、別れたカミサンに恥を忍んで大金を借りてでも、そのカネを賄賂に使い、地元の司法機関を動員。何が何でもジンシーを死刑に追い込もうと捜査を重ねていたのでした。そのあげくが、組織に追い込まれたジンシーを助ける側になるなんて何とも皮肉な展開なんですね。だったらそんな野暮な勘ぐりをすべきではすべきではなかったのではないかといいたくなりました。シュウの考え方や生き方、捜査方法を見ていると「僕の悪い癖!」というある刑事の有名な台詞が頭を駆け巡りました。そうなんです。捜査官シュウは、『相棒』の杉下右京そっくりなんですね。
細かいところが気になるところや、法律にそって妥協なく犯人を捕まえるところ。そして捜査をサポートする博学ぶりなど共通点が重なります。シュウの場合は、特に気孔に詳しく、人体の気脈やツボを有力な捜査情報として扱っていました。
ただ右京と違って、突進する彼はちょっと墓穴を掘ったかなと言う印象です。
香港映画だけに、ジンシーと“七十二地刹”のメンバーとの対決シーンは本格的なワイアーアクションを見せてくれて、見応えたっぷりでした。ややアクションシーンに繋がれば、あとのストーリーは甘くなっても構わないという手抜きというか、よくいって香港映画のカンフーものの伝統に触れることができました。
それでもジンシーを演じているドニー・イェンの演技は素晴らしかったです。市中で爪を隠して凡人として生きている時の、小人ぶり。そこから一転して、敵に囲まれたときに殺気立つ姿。その両方をきちんと演じ分けて、本作での存在感を強く印象づけられました。
それ対して金城武もオタクで飄々とした掴みどころないシュウを、新境地の役どころとして、よく表現しているとは、思います。でも彼の個性にはあっていない気がしました。ああゆうユーモラスで変わった人物は、ジャッキーのほうが似合っていると思います。金城武の熱演には申し訳ないけれど、ちょっとミスキャストではなかったかなという気がします。
試写会では、終了時に大きな拍手に包まれた本作。試写会の観客には受けたようです。
追伸
背景に写し込まれている雲南省の風景がとても美しく、映像美もポイントの作品です。