「原作へのリスペクトをもって、当時の東宝というより日本最高の製作陣が結集しています」日本沈没(1973) あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
原作へのリスペクトをもって、当時の東宝というより日本最高の製作陣が結集しています
ご存知、日本SF小説界の巨人小松左京の400万部発行の超ベストセラー小説が原作です
上下2巻ものボリュームがあり、その内容も大変に密度が高く情報量がケタ違いに多い原作を、よく2時間半で映画にまとめたものです
全く長く感じず、原作の雰囲気を的確に表現してある橋本忍の脚本はお見事です
何もせん方がええ、そんな気がするのじゃ
などの原作の屈指の名場面の数々をキチンと映画の中に反映されているのは原作ファンとしては嬉しい限りです
原作へのリスペクトがあるのです
後のリメイク作品にはそれが感じられません
その脚本を、四本もの黒澤作品でチーフ助監督を務めた黒澤明の一番弟子の森谷司郎監督の手腕がまとめ上げています
つまり緻密で完璧な映像が追求されているのです
例えば閣議シーンなどをみれば、5年後に撮られた山本薩夫監督の皇帝のいない八月のそれとは雲泥の違いだと分かると思います
さらにその黒澤監督に重用されて、当時撮影監督に昇格したばかりの木村大作のカメラが雄大でかつ美しい海洋シーンの撮影をしており、これが雄大なスケール感を与えています
そして特撮パートは円谷英二の一番弟子の中野昭慶特技監督が、彼の得意な紅蓮の火焔と莫大な濁流で首都直下型地震を、富士山の噴火シーンでは薄暗い大空を背景に雄大な富士の山塊の中腹から巨大な爆発的噴煙を素晴らしいクォリティーで撮影しています
かって世界に冠たる特撮を示した東宝特撮の頂点をこの作品で観ることができます
強烈な揺れの中、弾けとぶ家具
火の海になる都内
津波のシーンは正に予言そのものの映像です
東日本大震災の実際の映像とさして違わないのです
フラッシュバックしてしまう人もいるのではないでしょうか
当時の東宝というより日本最高の製作陣が結集しているといえます
阪神大震災、東日本大震災と原子力災害
そして震災ではありませんが、国難として本作に近いコロナ危機
これらを経験してきて、本作のリアルさがより強く感じられるのは、それだけ本作が素晴らしい証であるという証明でしょう
日本という国土をうしなったらという思考実験
それが日本沈没ということ
原発事故やコロナ危機は正にそれへの入口に現実に立った経験をして来たのです
南海プレート地震、首都直下型地震が切迫しつつあるのではないかともいわれます
地震の予知は今も出来ないですしこれからも不可能でしょう
もしできたところで、田所博士のような学者の警告に耳を傾けて対策を取れる政府や私達なのでしょうか?
中国からの渡航禁止、緊急事態宣言の発出をためらい、何日も浪費して事態の悪化を招いたこと
また突然の学校休校には、国民から凄まじい反発と非難が巻き起こったのこと
これらは記憶に新しいことです
コロナ危機はなんとか乗り越えつつあるようですが、第二波、第三波の来襲も懸念されています
全く違った形の国難も来るかも知れません
果たして日本は、日本人は次の国難に耐えられるのでしょうか?
何となく漠然とした不安を、本作を観るとそう感じてしまいます
何もしないほうがええというセンチメンタルな美学を廃して、足掻いて足掻き抜く
本作のテーマを忘れないようにしたいと思います