ゼロ・グラビティのレビュー・感想・評価
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ロングショットの新境地
ヒッチコック『ロープ』からクエンティン・タランティーノ『パルプ・フィクション』に至るまで、映画の迫真性を増長する技法としてロングショットは大きな価値を持ってきた。
それというのもカメラに収められた映像というものは、カメラに収められているという点において現実に起こったできごとだから。リアリティがある、というかリアルそのものなのだ。
それらの映像を事後的に編集することによって「映画」が出来上がるわけだが、編集は多ければ多いほどリアリティが抜けていく。編集というのはある意味で神の手であるから、物語のそこかしこに神の手が見えてしまったら、我々は満足にサスペンスや興奮を感じることができなくなる。
だからこそ編集のないロングショットというものがリアリティという観点において大きな価値を有していたのだと思う。ロングショットの申し子として名高い相米慎二は長回しは否応なく役者の本質を引きずり出す、といったことを言っていたけど、これもまたロングショット=現実の転写という等式を内面化した上での発言だろう。
これらを踏まえた上で本作に立ち返ってみると本当に不思議な気持ちになる。のっけから『黒い罠』を彷彿とさせるようなロングショットで映画が始まって、破片衝突までの様子が描かれる。カメラは文字通りゼログラビティで宇宙空間を彷徨いながら主人公たちの動向を映し出すのだが、あまりにも画角がフワフワ揺れるものだから酔ってしまいそうになる。自分まで宇宙空間に放り出されてしまったかのような錯覚に陥る。
しかし言うまでもなく、この映像はまったくもってリアルの転写などではない。いくらリアリティがあるとはいえ、実際に宇宙で撮影したわけではない。言ってしまえばすべてが事後的な編集の産物だ。にもかかわらずそこには手に汗握るサスペンスと湧き上がるような興奮がある。
現実をそのまま転写する、というロングショットの本質の一つであったはずのものが完全に抜け落ちているというのに、私はこれをロングショット以外の言葉で形容できない。マジでなんなんだ、これは。
『トゥモロー・ワールド』終盤の銃撃戦シーンにも同じようなロングショットがあって、恐ろしい監督だなあと思っていたが、それが本作で大爆発したといったところか。
映像処理技術のめざましい発展によって、もはやロングショット=現実の転写という等式は瓦解しつつある。本作のような非ロングショットなロングショット映画というものはこれから先もどんどん増えていくだろう。
いつまでも「長回しは長けりゃ長いほどいいんだぞう!」みたいな映画史オタク的な妄執に取り憑かれていてはいけないのだなと思った。
アルフォンソ・キュアロンは青春モノから大作シリーズものまで幅広く務めるオールラウンダーだけど、序盤の小気味よくナンセンスな雑談パートは『天国の口、終わりの楽園。』の頃の作風を彷彿とさせた。危険や死と隣り合わせでも軽口がポンポン飛び出すあたりがメキシコの映画監督という感じ。
迫真の演技で終始ドキドキしました。
SFの大傑作
今まで観たパニック・サスペンス系のSF映画の中でも、3本指に入る。 多くの賞を受賞しているのは、納得だ。
登場人物は、最初から最後までサンドラブロックとジョージクルーニーの二人だけ。 そのため、宇宙空間での人間の無力さと絶望感が、よりひしひしと伝わってくる。 冒頭はのんびりした宇宙船外活動のシーンから始まるのだが、事故が起こるまでの展開が、あれよあれよという間に進んでいく。 そこから最後までは緊張の連続で、一瞬たりとも目が離せない。
特筆すべきは、その演出にある。
映画の中心に据えられているのは、登場人物の二人よりも、むしろ宇宙空間そのものだ。 最初は、無重力と静寂が心地の良い母体の中のような落ち着きを感じさせてくれるが、 超高速のクラッシュが発生した途端、一気に生命感の無い暗黒が画面を占有していく。 特殊効果による宇宙空間の映像表現が、とにかく凄い。
事故の激しさを演出するための爆発音や、役者の大げさな叫び声などは、一切排除されている。 冷静さを保とうとしながら、やるべき作業について無線で連絡し合う二人の会話だけが緊迫感を高めるのだが、この演出が効いている。
素晴らしい演技でアカデミー主演女優賞を獲ったのは、サンドラブロック。 ジョージクルーニー演じるベテラン宇宙飛行士も、彼にしかやれないはまり役。 ラストシーンは感動的で、特に素晴らしかった。 脚本、演出、撮影、特殊効果、音楽、演技、すべてが噛み合い完成した、傑作中の傑作だ。
犠牲になる勇気と生き残ろうとする気力
思考よりも視覚で楽しめ
映画館で、ましてやiMaxなどで観なくてよかった、と思うほどの圧倒的映像。
もし観ていたら絶対に酔っていたと思う。
民間で宇宙旅行が可能となった昨今、宇宙からの映像は手軽かつ鮮明に見られる。
比べても遜色ないどころか、同じにさえ感じられる宇宙や施設、機材の再現度がすごかった。
(スペースシャトルが現役、というところに古さを感じる程度か)
これには当時、みなが腰を抜かしていたこともうなずける。
のみならず全編が無重力設定だ。
ゆえのあの動きとカメラワーク。船内、船外、寄ったり、引いたりはどうやって撮影したのだろう、あまりCGっぽさも感じられず興味は尽きない。
(と思えばメイキングで見る限り演者を装置で吊ったり、回転させた映像へCG加える手順だった。工程は緻密かつ複雑ながら、仕上がりのシンプルさがどうやって撮影したのか不思議に思わせているのだろうな、と思う)
スペースシャトルからISS。ロシアのソユーズから、中国の宇宙ステーションを経て中国の帰還船と、オールスターな構成もサービス満点で見ごたえあり。
細かいところを考えると「それはオカシイ、ムリムリ、なんでやねん」と思わないわけでもないが、
ノンストップの脱出サスペンスと思えば、次々襲い来るアクシデントをかいくぐり、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ、
諦めそうになっても奮い立ち、手に汗握るどころか、最後は運を天に任せる潔さで感動さえ与えてくれる本作。
やはり観るのは、それら怒涛のジェットコースター展開の途切れなさであって、
引き立てるスキなき映像もあわせれば、まだまだ十年後だろうと通用しそうな作品だと感じた。
一番引き付けられたのは、たくさんの破片と共に大気圏突入のシーン。
「ファーストマン」なども合わせてみると、あの恐怖がなおさら肉迫、とお勧めしたい。
憧れの無重力と、宇宙空間の恐怖を同時に味わえる。
・・・のだが、どうにもサンドラ・ブロック演じるライアンに、終始苛立つ程の違和感。
現実を直視しない冷静さの無さ、時間という限られた中での行動への躊躇。そこからお約束の様に訪れる危機、そして事故。とても宇宙飛行士として選ばれる資質ではないはず。人間らしいと言えば、人間らしいのだが。
批評はしてみたものの、やはり手に汗握る展開と、これでもかと見せつけられる宇宙空間の美しさ。この為だけでも鑑賞する価値は充分にある。
諦めたら終わりという''無限に広がる空間''。
宇宙船、宇宙服という''閉塞された空間''。
"生きる"という事へ執着する重要性。
そして、それらを含めて全てを悟っているジョージ・クルーニー演じるマット。
登場人物の設定をここまではっきりと明確にしたのは意図があっての事で、そこにどれだけ引き込まれるか。この90分という非常に短い尺の制限の中で、脚本をしっかりまとめるにはこれだけの思い切りも必要と感じる。出来る限り無駄を省き、伝えたい物語をストレートに鑑賞者へ。だからこその2人、表現が出来るこのキャストでもあったのだと思う。
この【ゼロ・グラビティ】で起こる事故の切っ掛けは、やはり人為的なもの。
起こってしまった事への対処、細かな所に気配り、目配りがどれだけ大事か。そこに至るまでの経緯で、どれだけ真摯に取り組んだか。たった一つ見逃した切っ掛けが大きな事故に繋がっていく怖さ。
酸素が必要で、火花が散り、水があり、重力がある。改めて地面で重力を確認、体感して"生"を感じる。前半の悲劇はとりあえず置いておいて、ホッとするラスト。さすがアカデミー賞という演出、映像美。SFというよりは、とにかく宇宙が好きな方は是非。
追記:
2023/02/23 地上波にて吹替版を鑑賞。
改めて観てもライアンの慌てぶりとそそっかしさに苛立ってしまうが、やはり演出がとにかく素晴らしい。再評価★+0.5にして修正。
重力の恵み
完全に宇宙
宇宙で禅問答
優秀なベテラン初老宇宙飛行士がヘタレ宇宙飛行士を救うお話。
先ず、めちゃ綺麗な映像です。
ジョージ・クルーニー演じる、マット宇宙飛行士。
本来ならば生き残れたであろう超優秀なベテラン初老宇宙飛行士が『仲間の命が助からないと判断出来た時、諦める勇気』が無かった為、自らの死を持ってヘタレ宇宙飛行士を救う事になる。
サンドラ・ブロック演じる、ストーン博士。
メディカルエンジニアとは言え『訓練を積み万人から選ばれた宇宙飛行士』とは思えぬメンタルの弱さとヘタレ言動とパニック行動。
終始イライラしっぱなしでした。
物理的な観点でもISSのコード紐に脚が引っ掛かったストーン博士が、マット宇宙飛行士を掴んだ時、真空なのに何故あんなに長く二人を引き裂く力が加わっているのか謎です。
まぁそんな細かい事は気にせず、ホラー映画として違った角度から楽しめる映画とは思います。
映像は観る価値あり
さすが7冠
クリアーな映像、リアリティを欠いたストーリー
素晴らしい映像美の作品だ。
宇宙は大気が無いので、
大気圏外はきっとこの作品のように
クリアーな世界なのではないかと思った。
このクリアーな宇宙空間シーンを見せる
のが、この映画のひとつのテーマ
なのだと納得する感動的な映像だ。
一方でそんな世界だからこそ、
人間にとっては怖い場所ともなり得る訳で、
そこからの脱出劇がこの映画の
もう一つのテーマだろう。
いかに観客がハラハラドキドキ出来るかに
その成否がかかっているかは理解出来るが、
ただ、そこにはある程度のリアリティが
必要だ。
観客動員を意識し過ぎたか。
次々と襲いかかるトラブルが多過ぎ、
特に、ソユーズ乗船以降、
中国の宇宙ステーションに到着から、
更に地球帰還のラストシーンまでが
御都合主義的解決ストーリーになって
しまったのは残念だった。
ここは興行意識を少し外し、
トラブル回数を減らし、
その解決策を丹念に描くことで、
より名画に近づいたのでは無かったかと
考える。
また何故か、最近観たある戦争映画
が頭に浮かんだ。
ラストでヒロインが水中でカプセルから
脱出出来ず“溺死する”のが、
映画「U・ボート」の世界だな、と。
その道の専門家が、
その専門知識を駆使して
専門世界のトラブルと散々格闘して
生還出来た挙げ句、
最後の最後に
専門外要素で命を奪われる皮肉。
そんな描き方をしなくとも良い設定の映画
で良かったなと、
つまらないことが頭を過った。
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