「おとしまえ」シン・エヴァンゲリオン劇場版 U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
おとしまえ
とてもじゃないが、1回観ただけでは良し悪しの判断がつきそうにない。
全シリーズ観てはいるものの、記憶は遥か彼方に埋没していて、序から順に一気見した方が良いように思う。
先ずは設定が理解しきれないし、冒頭から暫くは「あー、こんなんだったっけ?」てな具合で、軌道修正にある程度は費やすような気がする。
ただ…これは記憶なのか印象なのか。
本編が始まり物言わぬシンジの第一声に込み上げるものがあり泣いてしまう。
なんで泣いたか分からない。
緒方さんの芝居に泣かされたのかもしれない。
主役だけではなく、声優陣の魂に触れたような台詞が多々あって…物語は朧げに追ってるだけなのに、なぜにこんなに揺さぶられるのか不思議だった。
ドラマパートの感想は、一気見した後に追記するかもしれない。
作画は驚く程の精密さで…まごう事なき大作だ。
一応、本作で長きに渡るエヴァンゲリオンは終幕を迎える。率直に言えば「厨二病からの卒業」って感想ではあったが「主人公の成長」が明確な形で完結する物語とは別に、社会から注目され続けた「エヴァンゲリオンってコンテンツからの脱却とか解放」のようにも感じた。
この感想が、一気に観た後に覆る事を祈りたい。
が、加熱し続けた熱病の特効薬としては、見事な幕引きで、完璧な終息にも感じた。
社会を巻き込んで加熱したエヴァの着地点は、TVシリーズ当初の目論見からは変化をし続けたのではないかと思われる。
無論、元々の結末をよりドラマティックにした結果ともとれるだろう。色々とぶち込んだ変遷の辻褄をなんとか収束させたって印象もあった。
偏に長すぎた時間の弊害なのかもしれない。
TVシリーズの最終話が、原画の状態で放送されていて、当時は様々な憶測が飛んでたのだけれども、それにすら意味を持たせようと果敢に取り組んだようにも感じる。「悪あがき」に取れなくもないが、効果的であり、ほのかに演出意図を想像もできる構成は、作品に対するプライドと意地の成せる業なのかもしれない。
エヴァは複雑なテーマを内包していて、作品がひとり歩きし大きくなり過ぎた感もあって…最早、1人が背負い込むキャパの限界を超えてしまったように思う。
制作者の苦悩はどれほどのモノであったろうか?
1つだけ変わらない事は、声優陣の存在感だ。
ホントにホントに素晴らしい。
ライフワークにも感じるような年月なれど、その紆余曲折がそのままキャラに転化されてるような…それ程に真に迫った声で、そうそうお目にかかれない至福の時間であった。
この場を借りて謝辞を述べたい。
緒方恵美さん、あなたが碇シンジの声をあててくれて僕らは幸せでした。おそらく各国で吹替版が出来、各国の名だたる声優や才能ある声優が碇シンジを演じるのだと思います。だがしかし、あなたを超える人はいないでしょう。出てくるはずがない。
僕らはとても幸せな観客です。
声優陣は皆様、偉業を成し遂げられたのだと考えます。人物達の内面を抉るような台詞が多く、何かを捨てたり振り絞る事も多々あったのではと思います。
それでなくても膨大な年月です。
俳優は歳を重ねても味や深みが出てきたと評されます。ですが、声優にソレは当てはまらず現状維持が命題でもあるのでしょう。どれほど膨大な時間が流れようと作中のキャラが年をとらなければ、その声を出し続けねばなりません。
野沢さんとか化物じみた人もいるのですが、それを維持し続ける作業は想像にも及びません。
よく声優の仕事は「命を吹き込む作業」と揶揄されます。その言葉の本質を今作程に感じた作品はありませんでした。
お疲れ様でした。
そして、ありがとうございました。