「25年後の現在へようこそ」シン・エヴァンゲリオン劇場版 ipxqiさんの映画レビュー(感想・評価)
25年後の現在へようこそ
終わってた。。
あのQから一作で終わらせるなんて、どうせ前後編とかでしょ? とか斜に構えてたけど見事着地成功、ウルトラC。むしろA。
↓具体的な言及はありませんが、勘のいい人はなんとなく予想つくと思うのでご注意ください。
正確に時計を見たわけではないけど、3時間ある本編のうち、体感的には日常が1/3+艦隊戦1/3+決着に1/3ていう感じでした。膀胱の目安にご査収ください。
印象だけで言うとエヴァ…?→ナディアじゃね?→いやエヴァじゃん! という塩梅。ラストにはほんのり新海誠み。
さらに旧劇場版の補助線がないと、初見じゃ何が起きてるのかすら飲み込めないんじゃ…?
アニメでは異例の長尺というだけでなく、1回で咀嚼するのは難しそうな情報量なのでリピーターが続出しそうな予感。
観客動員に苦しむシネコンにとってはまんま福音となるだろうし、私が見た劇場スタッフの顔もなんだか明るかった。
豊富なリソースが投じられたとはいえ、こんなDAICONフィルムが業界の救世主だというのはすごい事態になったなぁとしか。
まぁ好きにやってきた結果、てことなんだろう。逆に好きじゃない仕事はしない姿勢を貫いたこと、そして終わらせるためのカントクのモチベーションがちゃんと現在へと向けられたことが勝因なのでしょう。
明らかに震災を通過した銃後の描写や、個人的な疑念はあるけど「大人になった」キャラクターたちに思わず25年後の現在へようこそ、と祝福したくもなる。
あとCGによる不気味の谷の有効活用も良かった。好きなキャラNo.1がアスカの今となっては、あの描写がもはや観客にそこまでダメージ与えるか、という疑問はあるけど…かつての熱狂を知っている身としてはダメ押しの警告、ってとこですかね(綾波さんのことです)。
とにかく終わりそうになかったものが終わった、というのが評価の大部分であって、面白いかどうかはまた別の話。私にとっての面白さの評価軸とはだいぶ前にかけ離れてるので。。
破以降に通して言えることですが、戦闘の面白さって脚本で対立の力学をちゃんとコントロールしてることじゃないでしょうか。
次々にチート的なギミックが展開していくことがアリにされてしまうと、単純に緊張感が仕事しないわけです。ハイクオリティなアニメだからまだ観られるけど、画面がショボかったら誰にも見向きされないのでは。。
一方で、こんだけ長い制作期間の中で、今までなかったドラマの局面が描かれていたのはよかった(終盤のパート)。ていうかそれ、スゲー普通の展開だよね!? 普通まっさきに着手するよね?
アスカ頼みだった旧劇に対して、ようやく主人公らしい行動を見せるシンジ君とか。
冷静に考えると限りなく普通の展開なんだけど、ド直球の古典的ジャンルの上でそれを拒絶しつづけたことがエヴァの個性でもあったという逆説があり。熱々のアイスクリームみたいな矛盾を内包していたわけですが。
さんざんベタを回避してきて、事ここに至ってカントクがようやくそれを許容できるようになったことに祝福を…した方がいいのかなあ?
個人的なセラピーがひとつの産業を形成してしまうことが神に祝福された天才たるゆえんですかそうですか。。
これでモンスター的なエヴァビジネスも一旦ピリオド。これからの庵野監督はどこへ向かうんだろう?
2000年以降の宮崎駿並に「作れば当たる」状況はこれからも続くんだろうか?
気になるのは、カントクの伴侶の方や関わっている特撮関連の事業など、「身内」へのあまりに素直なコミットぶり。
以前、スタジオカラーの有望な作画スタッフが作った短編作品の、当時としても無邪気すぎる血中萌え度数の高さに絶望感を覚えたこともあり、そういう身内への甘さが2021年においても女子にはピタピタのスーツを着せ、ためらいなく記号的な萌え描写を披露する結果につながっているのでは、という懸念。
果たしてそれがないと「エヴァじゃない」んですかね?
近くの席に高校生男子のグループが座っており、自然と30年後くらいには、きっとこの直撃を浴びた中からたくさんの作り手が出てくるんだろうな、とか思いを馳せたりしたもの。
それだけに、この小さなトゲの行方が気になりました。